300字短編 「虹」 (テーマ:色)
https://mobile.twitter.com/Tw300ss/status/860826497883308033
虹
ぱらぱらとした音が止み、少しだけ窓を開けると強く雨の匂いがした。
「虹、」
すぐ近く、背後で眠っているはずなのに声がしたので見ると、目が覚めたらしい。じっと窓の外の、塀の上にある小さな空の方を見ている。私も目を向けると、そこにうっすらと、言われなければわからないぐらいにうっすらと虹が出ている。
「昔から思ってるんだけどさ、七色じゃないよねえ」
「言われてみると確かに」
「だんだん変わってく間があるじゃん」
「うん、間あるのはわかる」
「あの間の色って、なんて言うんだろうね」
なんて言うんだろう。
それから、そのことを二時間ぐらい話して私たちは別れて、それからずっと会うことはなかった。
今日も虹を見た。
いつかきっと、また話そう。
無料配布ペーパーのお知らせと、お試し 短編「給水塔の空」文フリ東京C-63 「平行線別離」収録
もうすぐ文フリです。
無料配布冊子できました!お気軽にお越しくださいね!
無配はショートショート2本収録
葉桜の公園で
「呼び名」
給水塔の上で
「給水塔の空」
給水塔の空は、本編収録短編の元バージョン。
「氷」というお題に沿って300字のショートショートを作る企画に参加したときに書いたものです。
内容がかなり異なるので、読み比べてみてくださいね。
「平行線別離」収録短編「給水塔の空」書き出しです。
給水塔の空(ショートショート増補 題「氷」初出一七年二月、四月)
給水塔の空
「じゃあ、またね」
朽ちた給水タンクの中の、丸く切り抜かれた水面に、肩を寄せるわたしとノノの姿が映る。表情ははっきりと見えないが、二人のシルエットはすごく自然だ。
背景の空が霞んで、ぼんやりと春が来ている。花と土の匂いがかすかに漂って、蜂が音を立てて通り過ぎた。私たちは今まで、街の外れにある廃棄された給水タンクの上で、放課後を一緒に過ごしていた。
最初から示し合わせてここにいるのではなかった。家に帰りたくなくてここへ来ると既にどちらかがいて、それをお互いに繰り返すうちに一緒に過ごすことになった。最初はどちらがこの場所を先に取るかでけん制し合っていたのだけれど、どうしても帰りたくない日に来てみたら、先に来ていたノノが上で寝ていたので私は仕方なく周りをうろうろしているしかなくて、
「いいよ、おいでよ」
と言われて、梯子を昇り、手を貸してもらって、私たちは急速に仲良くなった。
田舎住まいで学校の周りは山か森しかなかったから、家だけではなく学校にもあまり馴染めない私たちが居られる場所はここしかなかった。家と学校以外のどこにいても、必ず服が汚れてしまう。侵入するときに周りを囲んでいる錆びてあちこち鋭い柵にさえ気を付ければ、綺麗なままばれないで過ごすことができる。私たちは繰り返すたびに身のこなしが器用になっていった。
つづく
文フリ東京に参加します1階C−63 「別れ」と越境がテーマの短編集「平行線別離」#平行線別離
はじめまして。あるいはお久しぶりです。お元気ですか。
無事に新刊ができあがり、ようやく文フリ東京に参加できそうです。
「別れ」をテーマにした新作短編集『平行線別離』(文庫版56ページ)500円です。ワンコイン。
印刷が上手くいっていたらいいな。
こんな感じです。ハッシュタグは、#平行線別離
ぜひお越しくださいね!
今日から試読に少し解説を添えて記事にしていきます。
目次も記しますので、なにか気にして頂けたら嬉しいです。
会場での試読も、そしてブースC-63をよろしくお願いいたします!
そして、川柳と俳句と短歌の冊子『柳句歌談』現在制作中です。
無料配布もなにか考えたいところ、なんとかしたい……。
また巡り合うために同じ世界を生きて行く「平行線別離」
今までに、何かとお別れしてきましたか。
続きを読む300字短編「呼び名」(オリジナル)
お題に沿って300字のショートショートを記す企画に参加します。
今回のテーマは「散る・散らされる」です。
どうぞよろしくお願いいたします。
今夜21時開催です。第三十一回のお題は「散る」です。桜、水、光、様々なものが「散る・散らされる」光景を作品にして下さい。詳しい概要→ https://t.co/GtCHTLOpLL に沿って21時~24時に #Twitter300字ss のタグをつけて投稿して下さい
— Tw300字ss (@Tw300ss) 2017年4月1日
呼び名
休日二度寝、午前九時、息子の拙い声と共に揺さぶられて起きた。
「お花見に行きたい」
と何度も言うので、連れて出る。
外へ出るとき、この子は最初だけ大人しい。
今のうちに、と急いでコンビニに寄っておにぎりを買って、お花見の時期を過ぎて人のいない公園に入った。
黄色い滑り台と、もう誰も見向きもしない葉桜と水色のベンチがある。
一緒に座って、薄く白いビニール袋からフィルムに包まれたおにぎりを出して、
「中身なにが入ってると思う?」
と聞きながら開けた。
風が吹いて、わずかに残った花びらが散って、ひとひらが海苔に付いて、
「さくら。」
そう言われて、面白いな、と笑っておにぎりを渡した。
ツナマヨは、今日からさくらと呼んでいく。
お試し「坂崖村地域侵攻録」第一章「残像」段三 途中まで
続き
「焚き火トマト、って名前のお店があるんですよ。知ってます?」
小西さんは早足で歩きながら、駅へ向かう石畳状に舗装された街路を進む。それに続いて私と菱田さんが並んで歩く。不思議なお店の名前だ。初めて聞いた。私たちは夜の街を泳ぐように、前を行くコートを着たサラリーマンや客寄せをすり抜けたり、すり抜けられたりしながら、黄色い塗装が細かく剥がれた車止めを避けたり、信号で立ち止まったりする。タクシーと高級車とスクーターが乾いた音を立てて通り過ぎる。水族館の巨大な水槽のような夜の街の音はだいたい乾いている、温かみを感じるのは人が出す音、吐息や話し声ぐらいだ。
「知らない、トマトを燃やすの?」
と、割と適当な受け応えをした。と思って言い直そうかと思ったが、ほかに言い様がない。菱田さんが「そうそう、燃やすんです」と、ふわっと笑いながら肯定してくれた。パスタか何かかな、と思い、「行きつけなんですか?」と聞くと、「そんなでもないかなあ、たまにね。」と言って、それに続いて小西さんが、「4〜5回行ったかな」と言いながら駅へ向かう道を一本左に折れて、裏手の路地に入る。急な上り坂になった。
その先には街灯と街路樹と暗い空がある。両側にはマンションやオフィスビルが階段状に並んでいて、エントランスだけがぽつぽつと明るい。ほとんど人通りがなく、ずっと先に1人、茶色いコートに白いバックの女の人が、坂の向こうに消えた。小西さんが何かに躓いて、右手を大きく前に出し、前のめりになりながら左手と、左脇に抱える三角のそこそこ大きなバッグがこちらへ向く。私は咄嗟に手を出して支えようとした。そこに菱田さんの手も重なって、みんなちょっとぶつかってからすぐに体勢を戻した。何事もなかったかのように、また早足で歩く。気まずいわけでもなく、自然に歩調が戻る。私はすっかりイタリアンを想像していて、トマトソースのパスタを食べたいと思ったけれど違うかもしれないと思い、息をついて、
「なんのお店?」
と聞くと、菱田さんは「イタリアンBAR?って言ったらいいのかな」と言う。楽しみになった。すかさず小西さんが、「あそこです。イタリアン以外も出てくるんですけどね。洋食?」と言いながら指差す路地の先で坂道が終わり、小さくて誰もいない公園の奥に、もっと小さな光る看板が置かれている。近付いて見ると、茶色地に白抜き文字で、店名とイラストに彩られた看板があって『焚き火トマト』と記されている。美味しそうだし忘れられない店名だ。イラストも特徴的で、銅版画のうようなタッチに、フォークを刺したトマトが焚き火にかざされて滴っている。遠くから見たら目立つ色の看板でもないし、ぱっと見ではそんなに食欲をそそらない絵のように思えた。だけれど、見ていると心が落ち着く。そして、暖かいトマト料理の味が思い起こされて、口の中にじわじわと唾が湧いてくる。古い西欧の本の挿絵を見ているような気分なのに、すごく美味しそうだ。看板の脇にドアはなく、建物にぽっかりと2階へ上がる、ぼんやりとした階段への入り口があった。2人はことことと靴を鳴らして階段を上がっていく。続いて私も階段を上がる。ドアを開ける音と、小西さんが店内へ挨拶をする声がして、それはドアベルの音に混ざって聞き取れない。オレンジ色の灯りが漏れて、ふんわりとバジルの匂いがする。美味しそうだ。続いて菱田さんが丸い銅のドアノブを握り、店に半身を入れて振り向くと、逆光のなかで表情が見えないままで私に、
「トマト無い日があります」
と言うので、私は吹き出してしまった。
300字短編「消せないほくろ」(オリジナル)
今回も「Tw300字SS」さま(@Tw300ss)の短編ショートショート掲載企画に参加します。
第三十回のお題は「飾る」です。場所、人、物、心、言葉等、「飾る・飾られる」光景を作品にして下さい。詳しい概要→ https://t.co/GtCHTLOpLL に沿って3/4日21時~24時に #Twitter300字ss のタグをつけて投稿して下さい
— Tw300字ss (@Tw300ss) 2017年2月26日
午前9時までならぎりぎり間に合うかも知れない、ですが、遅れました。
欄外かも知れませんね。次は時間を守れたらいいな。
第30回。お題は「飾る 飾られる」でした。ざっと300文字以内。
ここから本編です。
「消せないほくろ」
私は今日も、鎖骨の下に一つほくろを描く。
最初は偶然だった。小学生の頃にペンを逆に持っていて、たまたまここに一つ点を打ってしまった。痛かった。
そのことはすぐに忘れたけれど、大人になってとても嫌なことがあって、もう立ち直れないと思ったときに、ペンを持って夢中で、そこに点を描いた。幸せだった頃に戻れるような気がして。
今一緒にいる優しい人は、私の鎖骨の下にはほくろがあると思っている。長い時間一緒に過ごしたら、深い関係を結んだら、この飾りのほくろは消えて、今の幸せも消えてしまうかも知れない。
その怖さから、私は今日も早い時間に帰る。その人は優しいから、笑顔でそれを許してくれる。
二人とも飾っていて、苦しい。
@TxtSana
#Twitter300字ss
お読みいただきありがとうございました!
今まで書いた短編をまとめたい気分になってきました。冊子にしたい、わからないけど、需要があったら嬉しいです。