お試し 短編集「平行線別離」より短編「木陰の告白」1/4 文フリ東京C-63 #平行線別離
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「平行線別離」#平行線別離
より、
試し読み短編
木陰の告白(短編 未発表「花」二〇一七年四月二十七日)
木陰の告白
「お久しぶりです。何年振りでしょうか。
やはりこの木の下に来られたのですね。そんなに泣かれて、もしやあの方とお別れになったのですか。
ああ、ですからそんなに泣かないでください。
そうです。知っています。かつて私は、開花を前にした桜の木陰におられるお二人のお姿を見ました。あなたとあの方はそこで抱擁しておられました。そうして口づけを交わして、別れて。三月に馴染みの深い、告白とその先へ向かう光景として、ずっと印象に残っています。
そうですね。お二人のお気持ちが通じたのだと思うと、私は寂しさよりも強く感激してしまって、偶然とはいえそれを見ることができたことがとても嬉しかったのですよ。
私もあなたに憧れていましたけれど、あなたが私のことを気にも留めていないことはわかっていましたし、私では不釣り合いでもありましたから、不思議とその時は辛いと思いませんでした。
開花直前に、お二人は進学のために、この街からいなくなりましたね。それぞれが別の県にお住まいになることを、私は羨ましく思っておりました。私は……進学ができませんから。外の世界のことが知りたくて、今でも羨ましいと思っています。
お二人の知らない、その後の花のいろを私は知っています。
……本編へ続く
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