sanaritxt’s blog

思考をぽつぽつ置いておくところです。

短編 「午前三時半 BAR地下一階」 題「酒」

「あなたなしでは、いられない?…なんて。
古い歌だっけ。あったよね。確か。
ねえ、ね。聞いてる?
ジンライム美味しいよ。
香りと、熱さね。喉に滲みるのがいいよね。胸が焦げて身震いするよ。これ、何かに似てる。
うーん…。あ、酔ってて聞いてないでしょ。もう眠いの?いつもそうだよね。じゃあ言うから。むしろ寝てていいから。
ねえ。一緒に飲んでると、身体中のすべて、細胞も脳も眼球も内臓も足の指先も指輪もね、すべてあなたになっちゃうような、あなたと一つになった気がするんだよ。この感覚、わからないだろうけれどね。わからないだろうってことも、わかるんだよ。
だから言うよ。しっかり覚えてて。朝になって、街に紛れた後も、私はあなたのことが好きだよ。お酒と同じぐらいには、あなたのことが好きだよ。それはね。他のことはどうだっていいって思えるぐらいに愛しいってことだよ。

お酒と同じぐらいには、愛しいってことだよ。」

 

短編 題「酒」より

文フリ大阪に参加します

ブログアップするのが当日になってしまいましたが、文フリ大阪に参加します。
みなさま遊びにきてください!

お品書きは、春東京で頒布した

「別れ」をテーマにした連作短編小説『平行線別離』に付録本、『掌編小説集300字』が付きます。

『掌編小説集』は、コピー本ですが、この先改稿して小説にする、種でもあります。おたのしみに!

ただ、どちらも冊数はあまりありません。完売はないと思うのですが、お取り置きもいたしますので、Twitterへお取り置きのご連絡いただければ嬉しいです。

https://twitter.com/txtsana/status/909449243294810113

追加でミニ栞付きです。栞は何種類かのなかからお選びいただけます。f:id:sanaritxt:20170918095044j:imagef:id:sanaritxt:20170918095103j:imagef:id:sanaritxt:20170918095124j:image

青が………多いですね……

 

電車での移動や、寝る前、ちょっとした空き時間にちょっと読める本です。読中、読後、さまざま想像を膨らませていただきたく思います。

没入感や、読んでくださるかたに合うように、最後の短編以外は全て、作中の登場人物の性別を記さずに書いています。人とひと。あなたと、誰か。浸っていただければ嬉しいです。

 

『平行線別離』のテーマである「別れ」

私たちにとって「別れ」は、日常のなかの出来事であるにも関わらず、あまり直視しないようにしていることかも知れません。別れても続いていく関係もあり、世界から消えるわけでもなく、消えたとしても心に残っている存在があるかも知れません。

誰かとともにいても、完全に溶け合うことのないように。ずっと平行線のように存在し続けること。

本書は祈りを込めた書籍です。

 

本書を書くにあたり、アイデアや雛形としてあった300字ショートノベルを、「別れ」というテーマに沿って大幅な書き直し、書き足し、あるいはまったく違う小説に作り変えています。その場で考えがまとまったものを、流し込んでいきました。新作もあります。

書き始めたのは締め切りの1日前でした。

手元にタブレットしかなかったので、まな板のようなキーボードを叩き続け、右手の指を一本ずつ突き指しながら書いていきました。ですので、後半小説としては短すぎて、掌編になってしまっています。

 

最後には、長編として発表するはずだった書きかけの小説の第1章を、テーマに合う形になおして収録しました。こちらは性別やキャラクターなどわかるように書いてあります。個人事務所、オフィスで働く個性的な女性達が出てきます。ワンマンの会社で振り回される厳しい状況ですが、「別れ」をテーマにひとまずの決着を記してあります。

 

台風により、ブース到着が14時を過ぎますが、ぜひ遊びにきてくださいね!

言語結晶

人にあまり興味がないせいか、自分も人から覚えられたり認識されると思っていない。相手のこともろくに覚えていないし、相手もこちらをすぐに忘れる。最初からこうではなかった。軽薄に誰かを強く強く信じたし、予想外に裏切ってしまったこともある。自分がしうることを人がしないと思うのは想像力が無さすぎる。ここ数年は裏切られてもよいと思う人だけを信じて、誠実に向き合うことにしている。痛みはある。痛くて良いのではないか。言わなければ誰も傷つくことも、不快な思いをすることもない。共感を求めない感情は存在しないことになる。
わたしに対して、明確に誠実に必要とする人がいれば個人的な人間関係を作る。それ以外はなにもかも要らない。この条件下に於いては、わたしが誰も必要とせず、誰もがわたしを必要としない状況が容易に成立する。なにもかも失ってから今のようになるまでに長い時間がかかった。かっこつけることも斜に構えることも諦念することも面白くない。子供だましの暴力やロマンスとして必要だったロマンスも飽きて、歳月とは常に未来でしかない酷な事実を知った。過去は祈りでしかなく、その祈りをより強くするために、その結果として今があると思いすぎてはならない。
今。現在とは未来が常に激しく運動している場で、わたしは、わたしたちはあらゆる方向から滝のように降るそれをただ浴びながら抗い、あるいは漂い、翻弄されながらもどこかへ向かう群れだ。
未来は常に不測で、一度進むべき方向が見通せたとしてもそれがずっと有効ではない。群れのなかの個体としてひとり、存在を獲得するのには限度がある。それを知るときに人は、自分と同じ境遇の人や、気の会う人と手を繋いで、誰かが狼狽えたり沈みかけたときにそっと引き上げる。
手で触れることができなければ視線を送り、声をかける。存在していても良いのだと。わたしはここにいる、ということを示すことで、それがわかるあなたも存在しているのだと示す。それをお互いに繰り返しているだけだ。ソーシャルメディアもそれで成り立っていて、無機質なようでありながら実際は生命の場であることから逃れられない。スパムやスパイウェアや事故でネットワークが破裂するまでこの状態は続く。
そこにある言葉は不完全で、見るもの聞くもの感じる物事すべてを示すことができない。言葉とは最初から不完全なもので、それが救いだ。なにもかも示せてしまえば言葉だけがあればよくて、人間は要らない。たとえば本があったとして、それは全て過去だ。過去の誰かがの感情や感覚、思考の中から言葉にすることができたごく一部を結晶化したものだ。わたしはかつて、膨大な古書を前にしたときに、これを書いた人の殆どが今はもう生きていないことに気が付き、恐ろしくなり、悲しくなり、傷付いた。と共にそれらがたまらなく愛しくなった。わたしにとってこの感情は並立する。同時に存在しうるものだ。

誰かと特に意味のない会話をすることも、会話のないまま別々のことをしながら過ごすことも好きだ。愛すべきことは言葉の外側にあり、私たちはだから、なんらかの手段でそれを人に伝えようとする。映画、絵画、小説、詩、舞台、音楽、ときに生きることに役立たないと言われるありとあらゆる表現が好きだ。それは過去になる。畏れは愛でもあり、祈りでもある。全てが繋がっていく。
ならば、言葉にならなくても、同じ時を生きる人とは向き合っていくべきなのではないか。
この態度で数年過ごしているが、わたしは日々、ただ忘れられていく。わずかな時間だけ人前に現れるわたしは、どのような色を映す結晶なのだろう。ときどきふと、そのことが気にかかる。

300字短編「隔世」(題材 渡す)

すずみさんへ
私が女学生の時分、お祭りへ行くときに、かあ様がこの浴衣をこしらへてくださいました。今のすずみさんの方が背高だとおもひますけれども、きつと似合ひます。
おばあちゃん

寮に送られてきた浴衣に手紙が添えてあった。祖母の手書きの文章を見るのは初めてだった。縦に延びた文字の繋ぎの上手さに、すごく昔の人なんだ、という現実感がある。心がざわついた。

それから数年を経て実家に戻り、母にその話をした。
「……へえ、意外。私手紙なんてもらったことないわ」
「見る?」
「いや、いいわ。そういうのって」
「そう?」
「私に孫ができたら手紙書くよ」
「……へえ、意外。そういうのって」
なんとなく笑いあって部屋に戻った。

母の書く文字にあまり覚えがない。自分と似た字を書くから記憶に残らないのだろうか。
私も、縦の線を長く延ばす癖がある。

 

352文字 時間切れ

300字短編「抱擁」題 かさ

「かさ」を題材に300字以内

 

抱擁

 

まだ雨は降らないらしい。
面会時間内にお見舞いに行った。病室を囲うビニールから顔を出すと跳ねるように喜んでくれた。ずいぶん小さくなった、と思ったけれど、言わなかった。去年の春に、二人でオルガン通りに行ったことを話した。そのときに初めて指を絡めて手を繋いだ。
「楽しかったね。」
手を取って、指を絡めた。皮膚が薄く、細い骨の感触が目立つ。なのに、握り返してくる力はすごく強い。
玄関から出ると、静かに雨が降っていた。バックに手を入れて、去年の誕生日プレゼントでもらった青い折りたたみ傘を取り出した。しっかりとした骨組みが大きく開いて、私を抱擁しながら雨を受け止める。濡れることのない頬を伝う水滴。すこし細い傘の柄を強く握った。強く。

文フリ東京ありがとうございました!

遅くなりました。イベントに参加して来たのでご報告いたします。

今回私のブースにお越しいただきありがとうございました!

気にかけて下さった方や、ブース運営にご協力下さった方にも御礼申し上げます。

委託本もあって、ブースはとても賑やかでした。

開始直後に買いに来て下さる方がいたりと、今までにない体験ができました。

委託として置いた本は、私も全て読んでいます。とても好きな本です。買いに来て下さる方も同じ傾向の本が好き、ということで、楽しく交流することができました。

東京では初お披露目となる本もありますし、今回イベントに申し込みをしたのに、様々な事情により参加できなかった方の本もあります。それぞれに違うジャンル、作風の本が並び、とても充実したブースになりました。機会があればまたご覧いただきたいぐらい、楽しくて充実したブースだったと今でも思います。

春先のイベントは、連休と絡まって参加予定を立てるのは難しいですよね。(実は私も平日とか、土日ではない方が動きやすいです)

私自身、昨年の同イベントに申し込みをしていながら参加できなかったので、出展者が来られなくても、本だけでも人目に触れるようにしたいと思っていて、こうして委託を受けさせていただいたのですが、やってよかったです。

展示方法はちょっと困ってました。私の本が彩の足を引っ張ってしまった印象です。

普段の出展は私の本一冊、単色のものだったので、設営は毎回その場の気分でやっていました。事前に送った荷物の中から使えそうなものを取り出して、周囲のブースから見ても埋もれないような配置です。周りが賑やかならシンプルにしたり。テーブルクロスの上にモザイクタイル状に本を置いていくつかランダムで剥がして置いたり、スケッチブックを広げてその上に本を一冊だけ置くとか。ブース番号だけはしっかり見えるようにするということだけは決めています。自分が本を探すときに、ブースの位置がわからないと探せないので。

今回は、藍色のクロスとキャンバス地のクロスを用意していて、藍色のクロスを置いてから委託本を飾っていたら楽しくなってしまい、委託本の位置と角度完璧だなあと思い嬉しくなってから、印刷所から来た自分の本が入ったダンボール箱を開封したら藍色の本が入っていてびっくりしました。暗すぎないか。テーブルクロスと同じ色だと、だめなんじゃないのか。単品だとすごく綺麗なんだけど、このブースに置くと、目の前の通路を通りかかるぐらいでは絶対に目につかないやつです。迷彩。
その後現地で本の仕上げにジェルシールを貼って、光らせて完成させようと思っていたのですが、今回は作業もできなかったので本当に目立たなかった……なんか本らしき塊があるような感じで手に取りづらかったと思います。

ただ、今まで私の本を買いに来て下さった方は通りがかりではなくて一直線に来て下さるので、今回もきっとどなたかが来て下さると思いながら過ごしました。(通りがかりっぽくしていて実際に寄る予定でいて下さる方もいます。嬉しいです。)

宣伝もほとんどできなかったので、事前告知を拡散して下さった方にはとても感謝しています。あと、その告知をしていたツイッターですが、イベントの時期に告知しても剥がさないでいて下さって嬉しく思いました。

今回ちょっと周りの状況の事情もあって、人が寄り付きづらいかなあと思っていたところ、私の本目指して来て下さった方がおられました。ありがとうございます。年に一度か二度、ほんの僅かな時間ですが、とても楽しくお話しできて、すごく嬉しかったです。お元気でいてください。またいつか。

同人イベントは部数が見えない、とよく聞くので、適切な冊数はわかりません。早々に本がなくなった委託本もあり、その後来て頂いた方には既刊一覧小冊子(貴重です)をお渡ししたり、できる限りのことをしました。

それから百合本のお問い合わせもありました。人によって認識が異なるので、どういった表現があるとそのジャンルに該当するのか定まっていなくて興味深かったです。色々と教えて頂いたりもしました。このジャンルは単独出展されている方が多くて、頒布や会場で過ごすこと自体に苦戦されることもあるようですので、同性で同じジャンルを書かれている方は連携されたらよいのに、と思っています。今後どんどん盛り上がって欲しいです。

私の本を含めて、委託本さまざま、実は通りがかりに気にかけて下さる方もいたのですが、留まっていただくことが難しかったので、対応が上手くできずすみませんでした。

ただじっくり本を探したい方に快適に過ごしていただくために、どうしたらいいのかなあ。

私は普段社交的ではないんです。ただ、本好きの方や私に好意的な方には笑顔になる、というか、笑顔にして頂いています。それほど、普段は沈んでいるので……。

話しかけるバランスが難しいなあと思っているのですが、今回はあえて声をかけることが多くありすみませんでした。事情があって。これをどう書くか迷ったのも、記事をあげるのが遅くなった理由の一つです。

私のブースに接近する方は、私から声をかけることが守ることにも繋がっていて、留まろうとして下さる方にはきちんと対話して、私のブースに来ていただいている方だと示さなければならなくて。

あまり話したくない方もおられるし、本だけをちゃんと吟味したい方もおられることもわかっていました。すみません。

事情は書きません。

そんな中で、通路を行き来しながら何度も私のブースに留まろうとして下さった方や、言葉少なく、ただ私の本が欲しいと頷いて下さった方もいました。

ツイートを見て来て下さった方も、緊張しながらお話しして下った方もいました。

私が不在の間、本を見て下さった方。

私の代わりに本を買って来て下さると、ご提案して下さった方。

差し入れして下さった方。

委託本を吟味して下さった方。

私が戻るより先に、私のブースで待っていて下さった方。

ありがとうございました。

今回、できるだけ存在感を消そうとして服装作っていたのですが、上手くいっていたでしょうか。

あと、今回宿ですがマンションタイプでした。住めそうです。

前日チェックイン前に、あまりに暑くてコンビニでアイスコーヒーとiceboxを買いました。手に持ったままフロントで、朝食の説明を受けていました。

「朝はコーヒー自由にお飲みいただけます。あ、でもアイスコーヒーはありません。買ってよかったね!」

と言われて、急に同級生の姉?みたいになりました。面白かったです。

ではまた。

300字短編 「虹」 (テーマ:色)

ツイッター300ショートショート企画に参加します。

https://mobile.twitter.com/Tw300ss/status/860826497883308033

 

 

 

 

ぱらぱらとした音が止み、少しだけ窓を開けると強く雨の匂いがした。
「虹、」
すぐ近く、背後で眠っているはずなのに声がしたので見ると、目が覚めたらしい。じっと窓の外の、塀の上にある小さな空の方を見ている。私も目を向けると、そこにうっすらと、言われなければわからないぐらいにうっすらと虹が出ている。
「昔から思ってるんだけどさ、七色じゃないよねえ」
「言われてみると確かに」
「だんだん変わってく間があるじゃん」
「うん、間あるのはわかる」
「あの間の色って、なんて言うんだろうね」
なんて言うんだろう。
それから、そのことを二時間ぐらい話して私たちは別れて、それからずっと会うことはなかった。
今日も虹を見た。

いつかきっと、また話そう。