sanaritxt’s blog

思考をぽつぽつ置いておくところです。

第二十五回文フリ東京に参加します

みなさまこんにちは。前回の更新以来、間が空いてしまいました。すっかり寒くなりましたね。

さて、今回文フリ東京に参加します。ブース位置は1階、B-23です。

頒布書籍お品書きは新刊小説『虹色の世紀』と『平行線別離』(のこりごく僅か)です。双方とも持ち運びに手頃な大きさの文庫サイズ、通勤や休み時間、寝る前など隙間の時間にお楽しみいただけます。

せっかくですのでぜひぜひ。お気軽にお越しください!

 

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そして……今回も、文学サークル『花と魚』さまの委託ございます!

『ミツユメ』吉川いと花著

『惣治郎』リリー・スイミー

フリーペーパーもございます。ぜひお越しくださいね。

 

私の頒布は

『虹色の世紀』

『平行線別離』

『試読冊子 平行線別離/虹色の世紀』

『ポストカード #moment01』

無配 詩歌句集

『柳句歌談義 俳句版』

 おまけ 栞です。

 

頒布書籍の内容をご説明いたします。

小説既刊『平行線別離』2017春 文フリ東京初版

A6文庫サイズ ビニールカバー 表紙キラ加工少し在庫僅か

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『平行線別離』は別れをテーマにした短編集です。300文字で書いたショートショートを改稿、改定したものに加え、書き下ろしを加えています。大変ご好評いただいており、残部わずかです。収録した短編は、どれも性別を記しておらず、お好きな想像をしてお読みいただけます。

最後に、長編用原稿の第1章を短編に書き直した「残像オフィス」を収録。こちらは文字の物量がぎゅっと詰まっておりますが、読みやすいというお声をいただいたり、内容をお褒めいただいたりと、大変ありがたく思っております。ある事務所を退職直前の女性を主人公とし、登場する同性の同僚も個性的です。

 

小説新刊『虹色の世紀』2017冬 文フリ東京新刊

A6文庫サイズ ビニールカバー現地にて作業予定 表紙キラシール加工少し予定

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 直前まで出せないかと思っていた新刊『虹色の世紀』です。

「継ぐ」をテーマに、ある一人の女性とその家族、友人あるいはパートナー、それらを横断、縦断する「虹」を色鮮やかに記しました。

こちらも300文字のショートショートを下敷きにし、それを改稿、書き下ろししました。短編それぞれ、単独でもお読みいただけます。そうして、全て読んだ時にひとつの物語、一人の人の物語として読むことができるように記しました。

過去を思い返すとき、すべてではなく、細切れの場面を思い出すように、あるいは記録として写真を撮るように、そのように短編を配置してあります。

詳細はウェブカタログにあります。

 https://c.bunfree.net/p/tokyo25/9501

転載しておきますね。

収録

 ・―序― (書き下ろし/十一月十八日)
  (1989年 0歳)

 f:id:sanaritxt:20171122103630j:image・隔世 (初出十七年九月 題「渡す」より/十一月十八日改稿)
  祖母からもらった浴衣と、添えられていた手紙。それから
  (2009年-2013年 20歳~24歳)

 f:id:sanaritxt:20171122103652j:image・虹(初出十七年六月 題「色」より/十一月十八日改稿)
  モラトリアム期 二人は部屋の窓から虹を見る
  (2010年 21歳)

 f:id:sanaritxt:20171122103715j:image・まどろみのBAR(初出十七年十月 題「酒」より/十一月十八日改稿)
  再会、そして告白
  (2014年 25歳)

 f:id:sanaritxt:20171122103746j:image・抱擁(初出十七年六月 題「傘」より/十一月十八日改稿)
  これまでのこと。存在の確かさ。
  (2017年 28歳~)

f:id:sanaritxt:20171122103817j:image ・あなたの世界(初出十七年四月 題「散る」/十一月十八日改稿)
  特別であること。
  (1994年 5歳)

  ほか、まえがき、あとがき。
 (まえがきは飛ばしてください。)

本編に、年や年齢を記すのを忘れていたので、これどうするかですね……

繋がりを読み解く楽しさもあります。お楽しみいただけたら嬉しいです。

 文庫2冊ともに500円です。ちょうど、ちゃんとお楽しみいただけると思います。どうぞよろしくお願いいたします。

今回も選べるしおり付き

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※画像は9月時点のもの。今回は明るい色が加わりますが、また青が多いですね……

ほか、

試読冊子『平行線別離/虹色の世紀』B5 12ページ

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それぞれより、書き出しに配置されている短編「木陰の告白」「隔世」を収録します。両編ともにご好評いただいております。(隔世はショート版の折に評価いただきました)

こちらもワンコイン、100円です。シンプルコピー本ですが、佇まい綺麗です。意外と量があります。

4部ぐらいしか用意できなかったので、品切れの場合はご容赦くださいね。

 

ほか、ポストカードの販売があります。

 

さて、無配です。

無配 詩歌句集『柳句歌談」俳句版 2ページ

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ミスって白紙2ページ付いているので4ページありますね……

たぶん2部ぐらいしかないので、お早めによろしくお願いいたします。あるいはツイッターまでご連絡ください。

 

会場の書籍の買い出しに行きたいため、ブースを留守にすることがあります。ですのでお取り置きやお越しいただけるお時間など、ツイッターでご連絡いただければ幸いです。

(不在字にメモなどで、書き置きを残していただいても大丈夫です)

 

それでは、23日、1階入って右奥のブース、B-23にてお待ちしております!

文フリ大阪ありがとうございました!

大変遅くなりました。文フリ大阪では、私のサークルブースにお越しいただき誠にありがとうございました。
イベント当日、到着が大幅に遅れたため、お待ちいただいていた方には大変ご迷惑をおかけいたしました。にも関わらずお越しいただき、とても感謝しております。また、時間の関係上、今回機会がなかった方もおられるかと思います。申し訳なく、とても残念に思っております。


平時であれば、イベント会場へは前日入りしております。ところがこの度は大型の台風により交通機関が麻痺していたため、そのようにすることができませんでした。天候によっては欠席もあり得ましたが、当日朝になり交通機関が復旧していたため、現地へ向かうことができました。そのため、到着が遅れた次第です。私が会場に入ることができたのは、15時頃、すこし過ぎていたかと思います。


結果、催事中ほとんどの時間不在にしておりましたので、今回頒布した小説『平行線別離』を欲しいと思って下さる方の中には、実際にお手に取っていただくことができない方もいらしたかと思います。申し訳ございません。
またいつか、機会があればぜひ、ご覧いただきたく思います。望んで下さる方のお手元に届くことを願っております。できることなら、大事にしていただけますよう願っております。
現在状態の良さそうな在庫がわずかに2冊ございます。次回参加予定のイベントは、文フリ東京・秋です。恐らくは持っていけます。
また、本書は大阪のカフェ『デュ・フルール』さまに少部数置いていただいております。お近くの方はご覧いただければ嬉しいです。食事の前後やティータイムに、楽しみながら試読してみてくださいね。他にも同人小説を置かれている、ゆっくりと過ごせるお店です。どうぞお気軽にお尋ねください。

さて、今回のイベント当日、私が不在の間、ブースを見守って下さったのは文学サークル「花と魚」様です。現地へ向かう間も大変心強く、きめ細やかなご対応をいただいておりました。とても感謝しております。「花と魚」様の書かれる小説は、心にしみるとても良いものです。一度手にとってお読みいただきたく思います。

当日のこと。

大阪に向かうまでの間、長距離バスに揺られながら、当ブログでイベント出展の紹介記事を書きました。そこそこの乗り物酔いを自覚して、アップロードした後に薄く長く断続的に眠りました。
大阪到着後、台風一過の空の下、気温の緩やかに上がるなか、電車の乗り継ぎを重ねながら会場へ向かいました。この移動中は主に、webカタログのチェックを行なっておりました。イベントの会場にどんな面白い本や、興味のある本があるのか、毎回このチェックはとても楽しいものです。また、今回はツイッターを見ている時間もありましたので、ご交流いただいているサークル様の、現地での状況もわかり、到着が益々楽しみになりました。

本来14時に会場入りする予定が超過し、駅の階段や道路などひたすら走りましたが、会場入りしたのは15時手前、あるいは過ぎていたかも知れないです。開場時間から参加されている方にとっては、ちょっと眠りの時間、あるいは遅い食事の時間、あるいはそろそろ撤収しようか、という時間です。一般来場者の方にとっても、帰宅して夕食、あるいはどこかで本を読み、街を楽しんでから帰るとなると、丁度良い時間かも知れません。
即売会で、長く不在にしていたブースというのは周囲に圧されるか、放置されたままで、ともすれば荒れた感じが出ます。今までイベントでそんなブースを見るにつけ、悲しい気持ちを抱くことがありました。今回、私のブースは「花と魚」様が随時見守って下さり、しん、として綺麗な状態が保たれておりました。豪華で美しい張り紙に、不在時のご案内を記していただいており、嬉しく思いました。ありがとうございました。
また、不在にしていてもブース前まで足を運んで下さるどなたかがいらしたように見受けられ、その度に、ブースに力が注がれていたのだと感じました。ありがとうございます。


設営を完了したのは16時頃だったかと思います。お越しいただいた方から見れば、私のブースは15時から1時間、常に設営中の状態だったかと思います。大変失礼いたしました。それでも喜んで頂けて、とても嬉しく思いました。今回、とても多くの方にお越しいただいたようです。大変嬉しく思っています。良い記憶としてずっと残しておきます。
と、ともに、みなさまにお越しいただいたことが、自分のことと思えず、戸惑い、驚いています。今まで私のブースにはあまり人が来ることがありませんでした。ですので、お話がきちんとできていたかどうか。お話しをお伺いできていたかどうか。大丈夫でしたでしょうか。
混み合っていてお話できない方や、試読やお買い上げいただけない方もいらしたとのことで、大変申し訳なく思います。今後気をつけて参ります。

即売会は交流の場、ということの意味が、ようやく少しわかったように思います。
「給水塔の空」が好き、という感想もいただけました。報われた瞬間です。ありがとうございます。お心にずっと、良い記憶として残る話が作れればと思います。語彙が……すみません。とても嬉しいです。
差し入れもいただきました。こちらも語彙が……とても嬉しいです。

次回以降があるとすれば、私のブースはまた、閑散としていると思います。
前回大阪に出展した際は、私はじっと本を読んでいて、人がいらしたことに気が付かない状態だったようです。
どのような状態であれ、基本温和にしていることに変わりはありませんので、今後機会がございましたら、どうぞお気軽に遊びにいらしてください。

欲しかった書籍の買い出しに関しまして、今回予定していた全てのブースを回ることができず、ご挨拶に伺う予定の方やお取り置きいただいた方をお待たせしてしまいました。撤収間際でお忙しいなか、柔軟に対応してくださり、感謝しております。お迎えいただいたことを思い返し、購入させていただいた本を、大事に読ませていただきます。
私が忙しいことを察してくださり、ブースまで書籍をお持ちくださったりと、たくさんのお心遣いをいただきました。

小説『平行線別離』の取り留めもない序文に書きましたが、私はスケジュールを組む才能が欠場しているからか、あるいは努力がたりないのだと思いますが、創作をしている時間が確保できないでおります。発想すらまとめている時間が取れず、6月頃から文芸活動をを止めようと思い始めました。
理由といたしましては、それよりも大事なものがあるから止める、ではなくて、ただ楽になりたいから、という側面もあったと思います。

今回の出展は、書くこと、創ることについて改めて自覚する場になりました。
創作活動をすることについて、あるいはしないことについて、考え方は人それぞれです。書いているからすごい、とか、書かないからだめだとか、楽をしているからいけない、とか、私はそういうことは思いません。ジャンルの上下もありません。人それぞれだと思います。
私の理想は、自分にとって何をすることが向いていて、何に楽しみを見出しているのかを知り、そして、何をすることが、自分にとっても人にとっても幸せであるのかを思いながら、実際に行動して、滞りなく実生活を続けていくことです。ですがこれらのことを、全て満たすことはできません。無理です。私は、何かを作る際にはとにかく頭を切り替えていかないと対応できず、切り替えには時間がかかり、そのための時間の捻出も難しい状態です。でも、この無理を続けることが、まだ少しはできそうだな、って、ぎりぎりのところで思っています。可能にする方法は見えています。恐らくはもっと、インプットを増やせば、そのぶん何かを作ろうとして切り替えるときに、そのきっかけとなる着想が出てきやすくなる筈です。こうして物事に取り掛かるときの、時間のロスを減らしていこうとしています。
ただし、本来は、切り替えているという意識すら不要なはずなんです。暮らしそのもの、人そのもの、自分そのものを、言語や造形の枠のなかに収めようとするときに生じる障壁を限りなく低くしていくことが理想です。

 

お越しいただき、喜んでいただけたことで、読み、書き、創るための力をいただくことができました。
イベントは毎回二度とない機会ですが、今後もご交流いただけますよう願っております。

ありがとうございました。みなさまお元気でいてください。

短編 「午前三時半 BAR地下一階」 題「酒」

「あなたなしでは、いられない?…なんて。
古い歌だっけ。あったよね。確か。
ねえ、ね。聞いてる?
ジンライム美味しいよ。
香りと、熱さね。喉に滲みるのがいいよね。胸が焦げて身震いするよ。これ、何かに似てる。
うーん…。あ、酔ってて聞いてないでしょ。もう眠いの?いつもそうだよね。じゃあ言うから。むしろ寝てていいから。
ねえ。一緒に飲んでると、身体中のすべて、細胞も脳も眼球も内臓も足の指先も指輪もね、すべてあなたになっちゃうような、あなたと一つになった気がするんだよ。この感覚、わからないだろうけれどね。わからないだろうってことも、わかるんだよ。
だから言うよ。しっかり覚えてて。朝になって、街に紛れた後も、私はあなたのことが好きだよ。お酒と同じぐらいには、あなたのことが好きだよ。それはね。他のことはどうだっていいって思えるぐらいに愛しいってことだよ。

お酒と同じぐらいには、愛しいってことだよ。」

 

短編 題「酒」より

文フリ大阪に参加します

ブログアップするのが当日になってしまいましたが、文フリ大阪に参加します。
みなさま遊びにきてください!

お品書きは、春東京で頒布した

「別れ」をテーマにした連作短編小説『平行線別離』に付録本、『掌編小説集300字』が付きます。

『掌編小説集』は、コピー本ですが、この先改稿して小説にする、種でもあります。おたのしみに!

ただ、どちらも冊数はあまりありません。完売はないと思うのですが、お取り置きもいたしますので、Twitterへお取り置きのご連絡いただければ嬉しいです。

https://twitter.com/txtsana/status/909449243294810113

追加でミニ栞付きです。栞は何種類かのなかからお選びいただけます。f:id:sanaritxt:20170918095044j:imagef:id:sanaritxt:20170918095103j:imagef:id:sanaritxt:20170918095124j:image

青が………多いですね……

 

電車での移動や、寝る前、ちょっとした空き時間にちょっと読める本です。読中、読後、さまざま想像を膨らませていただきたく思います。

没入感や、読んでくださるかたに合うように、最後の短編以外は全て、作中の登場人物の性別を記さずに書いています。人とひと。あなたと、誰か。浸っていただければ嬉しいです。

 

『平行線別離』のテーマである「別れ」

私たちにとって「別れ」は、日常のなかの出来事であるにも関わらず、あまり直視しないようにしていることかも知れません。別れても続いていく関係もあり、世界から消えるわけでもなく、消えたとしても心に残っている存在があるかも知れません。

誰かとともにいても、完全に溶け合うことのないように。ずっと平行線のように存在し続けること。

本書は祈りを込めた書籍です。

 

本書を書くにあたり、アイデアや雛形としてあった300字ショートノベルを、「別れ」というテーマに沿って大幅な書き直し、書き足し、あるいはまったく違う小説に作り変えています。その場で考えがまとまったものを、流し込んでいきました。新作もあります。

書き始めたのは締め切りの1日前でした。

手元にタブレットしかなかったので、まな板のようなキーボードを叩き続け、右手の指を一本ずつ突き指しながら書いていきました。ですので、後半小説としては短すぎて、掌編になってしまっています。

 

最後には、長編として発表するはずだった書きかけの小説の第1章を、テーマに合う形になおして収録しました。こちらは性別やキャラクターなどわかるように書いてあります。個人事務所、オフィスで働く個性的な女性達が出てきます。ワンマンの会社で振り回される厳しい状況ですが、「別れ」をテーマにひとまずの決着を記してあります。

 

台風により、ブース到着が14時を過ぎますが、ぜひ遊びにきてくださいね!

言語結晶

人にあまり興味がないせいか、自分も人から覚えられたり認識されると思っていない。相手のこともろくに覚えていないし、相手もこちらをすぐに忘れる。最初からこうではなかった。軽薄に誰かを強く強く信じたし、予想外に裏切ってしまったこともある。自分がしうることを人がしないと思うのは想像力が無さすぎる。ここ数年は裏切られてもよいと思う人だけを信じて、誠実に向き合うことにしている。痛みはある。痛くて良いのではないか。言わなければ誰も傷つくことも、不快な思いをすることもない。共感を求めない感情は存在しないことになる。
わたしに対して、明確に誠実に必要とする人がいれば個人的な人間関係を作る。それ以外はなにもかも要らない。この条件下に於いては、わたしが誰も必要とせず、誰もがわたしを必要としない状況が容易に成立する。なにもかも失ってから今のようになるまでに長い時間がかかった。かっこつけることも斜に構えることも諦念することも面白くない。子供だましの暴力やロマンスとして必要だったロマンスも飽きて、歳月とは常に未来でしかない酷な事実を知った。過去は祈りでしかなく、その祈りをより強くするために、その結果として今があると思いすぎてはならない。
今。現在とは未来が常に激しく運動している場で、わたしは、わたしたちはあらゆる方向から滝のように降るそれをただ浴びながら抗い、あるいは漂い、翻弄されながらもどこかへ向かう群れだ。
未来は常に不測で、一度進むべき方向が見通せたとしてもそれがずっと有効ではない。群れのなかの個体としてひとり、存在を獲得するのには限度がある。それを知るときに人は、自分と同じ境遇の人や、気の会う人と手を繋いで、誰かが狼狽えたり沈みかけたときにそっと引き上げる。
手で触れることができなければ視線を送り、声をかける。存在していても良いのだと。わたしはここにいる、ということを示すことで、それがわかるあなたも存在しているのだと示す。それをお互いに繰り返しているだけだ。ソーシャルメディアもそれで成り立っていて、無機質なようでありながら実際は生命の場であることから逃れられない。スパムやスパイウェアや事故でネットワークが破裂するまでこの状態は続く。
そこにある言葉は不完全で、見るもの聞くもの感じる物事すべてを示すことができない。言葉とは最初から不完全なもので、それが救いだ。なにもかも示せてしまえば言葉だけがあればよくて、人間は要らない。たとえば本があったとして、それは全て過去だ。過去の誰かがの感情や感覚、思考の中から言葉にすることができたごく一部を結晶化したものだ。わたしはかつて、膨大な古書を前にしたときに、これを書いた人の殆どが今はもう生きていないことに気が付き、恐ろしくなり、悲しくなり、傷付いた。と共にそれらがたまらなく愛しくなった。わたしにとってこの感情は並立する。同時に存在しうるものだ。

誰かと特に意味のない会話をすることも、会話のないまま別々のことをしながら過ごすことも好きだ。愛すべきことは言葉の外側にあり、私たちはだから、なんらかの手段でそれを人に伝えようとする。映画、絵画、小説、詩、舞台、音楽、ときに生きることに役立たないと言われるありとあらゆる表現が好きだ。それは過去になる。畏れは愛でもあり、祈りでもある。全てが繋がっていく。
ならば、言葉にならなくても、同じ時を生きる人とは向き合っていくべきなのではないか。
この態度で数年過ごしているが、わたしは日々、ただ忘れられていく。わずかな時間だけ人前に現れるわたしは、どのような色を映す結晶なのだろう。ときどきふと、そのことが気にかかる。

300字短編「隔世」(題材 渡す)

すずみさんへ
私が女学生の時分、お祭りへ行くときに、かあ様がこの浴衣をこしらへてくださいました。今のすずみさんの方が背高だとおもひますけれども、きつと似合ひます。
おばあちゃん

寮に送られてきた浴衣に手紙が添えてあった。祖母の手書きの文章を見るのは初めてだった。縦に延びた文字の繋ぎの上手さに、すごく昔の人なんだ、という現実感がある。心がざわついた。

それから数年を経て実家に戻り、母にその話をした。
「……へえ、意外。私手紙なんてもらったことないわ」
「見る?」
「いや、いいわ。そういうのって」
「そう?」
「私に孫ができたら手紙書くよ」
「……へえ、意外。そういうのって」
なんとなく笑いあって部屋に戻った。

母の書く文字にあまり覚えがない。自分と似た字を書くから記憶に残らないのだろうか。
私も、縦の線を長く延ばす癖がある。

 

352文字 時間切れ

300字短編「抱擁」題 かさ

「かさ」を題材に300字以内

 

抱擁

 

まだ雨は降らないらしい。
面会時間内にお見舞いに行った。病室を囲うビニールから顔を出すと跳ねるように喜んでくれた。ずいぶん小さくなった、と思ったけれど、言わなかった。去年の春に、二人でオルガン通りに行ったことを話した。そのときに初めて指を絡めて手を繋いだ。
「楽しかったね。」
手を取って、指を絡めた。皮膚が薄く、細い骨の感触が目立つ。なのに、握り返してくる力はすごく強い。
玄関から出ると、静かに雨が降っていた。バックに手を入れて、去年の誕生日プレゼントでもらった青い折りたたみ傘を取り出した。しっかりとした骨組みが大きく開いて、私を抱擁しながら雨を受け止める。濡れることのない頬を伝う水滴。すこし細い傘の柄を強く握った。強く。