第二十九回文学フリマ東京に出店します
こんにちは
久しぶりの投稿、イベント前日の投稿になってしまいました。
11/24(日)に行われる、文学フリマ東京に参加しますのでお知らせします!
場所は、【ア-17】
入り口入ってずーっと右の壁際です!迷わないですよ。人も多くなくて空いてます
来てくださいね!
(売り子さんも募集してます)
以上でエントリー終わる勢いですので、出店内容についてお知らせしますね。
今回頒布する作品も、活字や表現でできることに挑戦した作品ばかりです。
基本は既刊となります。
1.本年の文フリ広島で初頒布した『月光生』
お陰さまで出店の都度完売し、第四版になりました。ありがとうございます。今回大量に刷りましたのでしばらくは大丈夫です。
あらすじ
「ぼんやりとした、漠然とした不安」を抱えた主人公は、自分とよく似たかかりつけの医者から、新薬の試供品として、月の形をした植物の種子を手渡される。
そうして、「夜、月の光だけを浴びる」ように言われるのだが。
果たして心に安寧は訪れるのか。種子の正体とは一体。奇譚文学。
挿し挟まれるイラストのタイミングやバランスなど、「購入する本」「家、部屋に置いておく、飾る書籍」「持ち歩く、お守りや安定剤の役割を果たす書籍」を目指して制作しました。
「ぼんやりとした不安」については、文学、そして誰もが人生に起こりうる心境の変化についての回答、ひとまずの安寧を目指しています。
この機会にぜひ
次に
2.夏のコミティアにて頒布された、小岩様主催のアンソロジー『はこにわ』プラスおまけ冊子
『はこにわ』は、「生きづらい」がテーマのアンソロジー。わたし含めて計8名の生きづらさがギュッと詰まっていて、それらは実体験をもとに書かれているので、読んでいると共感や、生きづらさの先にある、ほんのわずかでも生きやすい道が見えるヒントが見つかるかも知れません。
エッセイ、漫画などバラエティ豊かな冊子に、わたしは小説で参加しています。
タイトル"Summer dot."(サマードットピリオド)
中高一貫の進学校に、高校から入学した田舎育ちの主人公、英(えい)は、中学からそのまま上がってきた、細くて色白の、まだあどけなさの残る一(はじめ)と仲良くなり、一緒にお昼を食べるようになる。
だが、一は旧劇に背が伸びて女性の人気が高まり、軽音部などあちこちふらふらした後に学外でバンドを始め、時折学校をサボるようになった。
同時に英も、ある言いがかりを受け同級生とトラブルになり理不尽な謹慎を受け、学校では浮いた存在となり、人の少ない場所で風景画を描くことだけが唯一の楽しみとなり、美術大学への進学を目指してみるものの…。
学校にいても可視化されない、存在するかどうかわからない男子生徒はたくさんいます。スポーツや部活、行事で葛藤や活躍する訳ではない、読者の皆さんにとって存在すら忘れているかもしれない、あるいは「あなたかも知れない」存在を書きました。
『はこにわ』お買い上げの方には、レイアウト修正版の“Summer dot."をおまけでプレゼント。
『はこにわ』完売後は、表紙、裏表紙フルカラー、"Summer dot."単品販を安価で販売。
なお、高校二年のエピソードが抜けています。来年刊行予定です。ですので本書は今からでもぜひ
3.青い街の記憶
1,000文字掌編SF
古くから少年雑誌や動画サイトなどで、恐竜の目撃情報がある澄んだ湖が、西アジアX国にあった。
ただの噂、子供騙しとして現地調査する者はいなかったが、21世紀に入り衛星写真から、どうやら遺跡がある痕跡が見つかり、本格的な調査に乗り出す。果たして…
以前こちらでも掲載したもの(現在は削除済み)の改訂版。文字数1,000を少しオーバー
月に一度か二度、岡山市で開催している創作会&読書会『瀬戸内文芸創作会』の課題作品。
この回の題は「水」でした。
ご興味ある方はぜひお越しください
本書、ルポ風の不思議な物語をお楽しみください!
4.委託!『不明のフラクタル』
リリー・スイミー著 文学サークル花と魚さまより、先頃の文フリ大阪新刊が東京へ!
「不明・フラクタル」の物語2篇
主人公には憧れのバイト先の先輩がいる。そつのない、屈託のない笑顔、気配り、とてもわたしには…ところがある日突然先輩は欠勤、次第に誰の記憶からも消えていく。バイトでは珍しいことではないが、主人公は気にかかり…(ふめいのフラクタル赤)
メダカを飼っている。いつのまにか身体に結晶が現れ、死んでいく。指で触ると結晶は外れて、透明な塩の結晶にも見えた。
あるとき主人公の手にもそれが現れて…
今回、ほかにわずかに、既刊『平行線別離』があるかも
部数少ないものが多いのでご予約ください。試読もお気軽に、読むの大事ですね
ブースでお待ちしております。
不在にしていることがあるので、Twitterのフォローやチェック、呼び出しなどご遠慮無くお願いいたします!
お待ちしてます!
微熱(講座課題:氷でつくる短編)約2,000字
ゼミで知り合い友人になった向田は、風変わりで面白い奴だ。夢を語るのが上手い。
平均身長より少し小さな普通体型に黒髪黒縁眼鏡の男で、行動力も見た目の魅力もない。そしてその『語った夢』が、叶った試しもない。時に気宇壮大に、飲酒を疑うようなことを言うし、突然矮小な事柄を楽しそうに語る。向田は、なんでも先週、帰宅途中に立ち寄った公園で子供たちが遊ぶのを、目を細めて微笑ましく、ベンチに座ってみていたのだそうだ。この日は7月中旬、気温は36℃だったという。くそ暑いのに、よくそんなところに居られたものだ。
「せっかくの夏だし」と言っていた。「夏を感じたい」と。
「冬になったら南半球に行けばいいのに」と言ったら、「情緒がないねえ」と、笑う。
「お前、酒入ってるだろ」「飲んでないわ。俺飲めないんだってば。えっと、それなあ、お前がそう言いすぎるせいで、他の友達から『向田は素面(しらふ)で酔っ払ってる』って言われるようになったんだぜ。俺は社会不適合者かよ。」あながち間違っていない、むしろ的確な表現だ。
「で、どうした、公園で」と聞くと、「ああ、そうだそうだ」と話し始めた。
「子供たちが、三人でね、ガリガリ君食べてるわけ。袋はゴミ箱に捨ててさ、なんか滑り台とかベンチで、立ったり座ったり飛んだりしながら。親はほったらかしで立ち話してて、あれ、よく話尽きないよな。子供見てないし、よくないぜ。でな?子供のうち一人が、当たりが出たのよ!そりゃあ騒ぐわ。ここまではいいな。
「ああ、わかるわかる」
「で、そのなかに、体のでかいのがいてな。それを取っちゃったんだよ。人の当たりの棒。そんで、自分の食べかけををその子に押し付けて、喜んでるわけ。俺は思ったね。これはひどい。こんなことのないように!世界中のガリガリ君が!当たりになればいいのにな!」
こいつ、また滅茶苦茶なことを言っている。「力強いな、うん。まあわからんでもない。ないがな、無理や!」
こんなことばかりなので、こいつにだけは関西弁を隠さずに出せるようになった。
年末、吹雪の夜に向田と、俺の部屋で二人、鍋を食べていたときのこと。
「なあ鈴村、俺な、好きな人できたよ」
「ホンマかお前、また適当なこというてるんちゃうやろな」
「いや、マジだ。映研の笠間さん」
「へー。誰だか全然わかららん。でも、まあめでたいな。うん、そうだ。俺も彼女にこのこと、lineで伝えていいか?」
「なー、ダブルデートとかいいよなー」
「めんどくさいだけやろ…、お、ユキ、通話出られるって!スピーカーにするぞ」
『え、あ、うわ、急にスピーカーかよー、え、もう聞こえる?えっと、向田くん彼女できたんだってー?!』
「いや好きな人ね。映研の笠間さん」
『えーーー!ちょ、ちょ!』
「ユキ慌てすぎだろー。どしたん?」『いや、えー、ハードル高すぎかな?ちょっと待ってて、通話切るね』
-メッセージ-
(笠間さんは、やめといた方がいいって)既読
既読(なんで)
(綺麗だけど、不安定でなんていうか、何股もしてる、らしい)既読
既読(らしいじゃ弱いし、承知済みかもな)
メッセージを終えた。向田の話をちゃんと聞こう。
「ええと、向田。ええとね、笠間さんのどこが好きなん?」
「ああ。AIって映画を観たらしいのね、彼女。スピルバーグだっけ。の、古いやつ。そしたら、」
「うん。おい、野菜煮えてるぞ」「お、白菜いいな。おう。でな、まあ聞け。人間の子供の役割をするアンドロイドがいてな。人類が滅びて、地球が雪に包まれるなかで、宇宙人に発見されるんだ。雪の惑星の地下の、圧雪氷の中で。その子供アンドロイドだけがな、人類の遺産として。文明の証として。人類は滅びたんだ。」
「うん」窓の外を見た。「こんなもんじゃなさそうやな」
「彼女は小さいころをそれを見て、怖くなったらしい。そんな悲しい話あるか、って、彼女は言うんだよ、俺に。そして孤独が辛くなったんだ。彼女も、色々あったんだろうな。」
「なんだ、お前知っとったんかい。彼女がその、なんや、ええと、色々な男と・・・」
「いいよ、わかってる。でな。俺は彼女のその話を、彼女の境遇に重ねたわけだ」
「境遇聞いたのか?」「ああ、小さいころからのな」「そか。」
「詳しくは話せないが、色んなことがあったらしい。彼女ああ見えて、実は誰にも心開いてないんだろう。そうだから、俺がなんとかできないかなって。彼女の心が氷解して、中から…な。誰もが当たりであるはずだから…」
「彼女から、ガリガリ君の当たりみたいな良心が出てくるのに掛けるのか?」「いや、良心は既に見出してるよ。きっとある。」
「今の男関係の乱れは?良心とか難しいで」「だからって、彼女が外れとはならないんだ。人ってな、一緒に居る人次第なんだよ。たまたま今まで、希薄な関係を送ってきたのかも知れないよな。だから、俺がまず、彼女にとって当たりであればいいんじゃないかと思ってる。人と人は、みんな当たりならいいのにって思う。誰しも、大事な人とは、お互いにな。それが大なり小なり、みんなに広がればいい。この話、いつか話しただろ?」
「ああ、世界中のガリガリ君全てがってやつだろ」
「そう。当たりが見えたときに、嬉しくなるじゃんか。俺がそういう存在であれば、笠間さんも嬉しいだろうし、そうなれば俺も嬉しい。お互いに、そういう存在になる。そういう生き方もいいじゃん」「ん…鮭、もう食えるぞ」
部屋で酒を飲んでいるのは俺だけだ。こいつは相変わらず、素面で酔っていて、俺が素面なら恥ずかしくて言えないようなことを平然と言う。「お前やっぱり、素面で酔っとるわ。」
「ああ、そうかもな」「もしな、上手く行かんかったら、俺には言いや」じっと向田を見る。だいぶ酔いが回ってきた。「ああ」向田は笑って答える。
俺は続ける。「お前の考え方からすると、俺にとって、お前は当たりや。だめだったら、また飯を食おう、こういう、身も心も凍る、冬の夜には特にな」「夏場は?」「冷麺やな」
「ふ…」向田は楽しそうに笑ってこちらを向いた、目元に涙が溜まっている。「お前も変わった奴だ。面白いわ」「なんでや」
「俺は色んな奴に、変な奴って言われてきたんだ。それと真面目に付き合うなんて、お前も変な奴だよ。酔っ払い。」
最初から先端を走っていたPokémon
コンテンツビジネスとテクノロジーが結び付いてから、発表会を開く企業が次々と、かつての(そして今も続く)アップル的な発表をするようになって長い。その形式はどれも似通っている。壇上に上がり、悠然とプレゼンをする。片手には製品を持ち、聴衆(という名のいくばくか息のかかった者を紛れ込ませたプレス)に向かって語りかける。理念を語り、本体の姿をなかなか見せず、焦らした後にVTRへ切り替える。映像が終わると拍手と感嘆のなか、登壇者は舞台上で、微笑みながら頷いて立っている。いかがでしたでしょうか。という顔で。こう書くとなにかのセミナーっぽい。
Pokémonなどの親しみやすいコンテンツで、このプレゼン手法が採用されることには違和感がある。Pokémonは私たちが小さな頃から、アニメや手のひらサイズのゲーム機、そして今はスマホの中と、暮らしに絡みながら離れずにいた暮らしの一部だ。よくできたエンターテイメントは暮らしに溶け込む。アップルやTEDスタイルの発表会は、どうも合わない。
合わないことは、Pokémon側もわかっているはずだ。だけれどこの発表会は、世界企業として投資家や提携企業、技術者に向けて必要なものなのであって、ゲーマーやアニメ、サブカルチャー好きに向けたものではない。私たちが日々接してきた愛らしい、記憶のなかのポケモンとの記憶共有者にとって必要なものではないのだ。私たちは、こういうテクノロジーや資金、資産運用で凌ぎを削る世界からは解離した、一消費者でしかないのだ。私たちにとって発表会はイレギュラーな場で、それは一般人も見ることができる状態になったバックヤードでの、企業戦争の場である。
Pokémon GOは、本来殺伐とした、位置情報で遊ぶソリッドな情報収集収ゲームを可愛らしく変貌させた。サイバーパンクに偏り気味な位置情報AR界に起こった、可愛らしさの革命は大きい。
このゲームは、位置データの収集と個人の動勢に、更なる集金方法と可愛らしさや希少性、競争、戦い、育成という、ビデオゲームだったPokémonの持つ基幹部分を叩き込んだ。そのおかげで、企業はデータだけではなく資金面でも益々潤っている。
人を行動させて、心をも動かす。とても良くできている、秀でたゲームのエッセンスが流用されている。
人の欲求に応え、時に煽り、時に慰めながら富を得ること、大きな目標に向かうようコントロールするのは、かつては為政者の役割だった。
それが今や企業が担い、そのフロントには常ににこにこと、小さな頃から親しんできたPokémon達がいる。
かつてディズニーが歩んだように、Pokémonも世界企業になろうとしている。
そういえば、古い時代のゲームは最先端のデバイスとプログラム技術で動いていたのだった。あらゆる時代に、その時大量に売れているハードで表現され続けるPokémonの世界。
コミックスやアニメに誤魔化されがちだが、あれは昔から、常に最先端のテクノロジーを、可愛らしさの外見で覆い隠していた。今の発表会はだから、Pokémonの本当の姿なのかも知れない。
こう書くと、あたかもPokémonのことをよく知っていて親しみもあるように思われるかもしれないが、私はゲーム版のPokémonを一度もクリアしたことがないし、数本積んでいる。サトシもよく知らない。
魔法のない暮らし(テーマ 水)
朝風呂
仕事は不首尾だ。言ったことを違える人や、我を通して捻じ曲げる人が多すぎる。人ばかりでなく自分も力がない。
風呂。
湯を貯める。唯一リラックスできる時間。
普段防水のとても古いAndroidを持ち込んで、音楽を聞いている。もう、防水能力が維持されているのかだいぶ怪しい。諸々疲れていたので当たり障りのないピアノ曲、澤野弘之作曲のなにかを流していた。プレイリストはランダム再生だが、そのどれもが物悲しい。
業務上の返信ミスがないか気になり、ツイッターを確認した。それは問題なかったのだが、Androidの有料ライアントアプリから創作用アカウントだけが外れていたので、アカウント名の確認と再認証のために仕事で使っているiPhoneが必要になった。入浴前に充電のため、PC横に放置してある。
アプリが上手く機能しないことはままあるので風呂上がりに直そうかと思ったが、アカウント丸ごと消えているのも気分が悪いので仕方がない。復旧のため、iPhoneを取りに戻る。このためだけに身体を拭くのも面倒だ。寒い。
ざっと拭いて、水滴を経路に残して風呂に戻る。
iPhoneアプリ内のアカウントは連携されたまま残っていた。
パスワードは、アプリ内に残っておらず、わからないままだ。結果、Androidでの認証に何度か失敗した。
何回までなら失敗してもよかったっけ、と思いながら、思いついたあるパスで通過。通過したらホッとして、その上急にiPhoneが鳴動したので、何のパスワードを入れたのか忘れてしまった。
二段階認証でSMSにコードが送られてきたのだ。見ると、数値を確認する間もなくポップアップはすぐに隠れた。必要なときは早く消える。
ままあることだが、アカウントがAndroidアプリから外れていた場合、まずは不正アクセスを疑う。
二段階認証が必要になったのも不正アクセス対策のためで、こうして、最初は物珍しくて便利だった技術も突破する術が行き渡るとただ不便になっていく。
陳腐で、哀れで生々しい行為になる。
余計な機能が付帯され、複雑化してどんどん原始的になっていく。そのうちに、その過程のどれかが無くてもあまり支障がなくなるのだ。男性の補完されない染色体のように。
パスワード。
老人がパスをぜんぶメモに書いて自宅PC周りを埋め尽くしている光景を思う。
なにか作業をする場での、視覚的な位置や空間を伴ったメモや付箋。
創作家のプロトタイプや部材、工具類で埋め尽くされた作業場は美しい。その美しさは、結果アウトプットされた成果物や目標よりも美しいことがある。
そうした過程は、本来見せるためにあるものではないのだから、ごく親しい人か仲間、本人しか知らない方ものである方が良い。
人がなにかを成すときに、過程を評価軸に置いても良い間柄とそうでない間柄があるが、過去を振り返るに、創作家で有名人ともなるとそうも行かないようだ。
昔の文人や作曲家、画家が、手紙や写真、破り捨てたものまで公開されて、それを知った人が、その人の生き方込みで作品を愛好することがある。
それとは、出来る限り切り離して評価してくれないか、と心の中で願うことがある。無理な話だが。
二段階認証の話だった。
かつて、医学や科学が体系化される前の時代の不便さに可能性を感じたり、美しさを感じるように、今またテクノロジーが高精度に集約されていく過程に生じるこの混乱も、自分が当事者でさえなければ非常に美しいものに思う。
史劇にダイナミズムを感じたり、物語に共感することで心動かされるのと同様に、他人事というのは、不便さや不都合さ、そこで苦しむ人に対しても当事者意識を持つことなく、気軽でありながら共感して、感動することができる。
共感というのは、「私はあなたではありません」という、境界あることで成り立つ。当事者は自分に共感することができない。共感することは、だから、同一ではないということで、寂しさの証左だ。
私は、誰かに共感している時に、上記のことを強く意識する。
「私は当事者ではないから、その一部分だけをより一層増幅して感じているのだな」
強い感動や悲しみを受けるほどに、そのぶん省略されて感じ取ることができないことはたくさんあるだろう。それを自覚することに、消して重なりきることのない、体温を知らない寂しさを感じる。
この寂しさは日常、人と関わる時間のどこかに常在する。
二段階認証から境界の話になった。
「特に劇的なこともなく、ただめんどくさい、こんなどうでもいいつまんないことしてる自分、今を生きてる感強いな」
と実感したので記した。
この生命感は何の感動も呼ばないし、きっと伝わらない。
シンギュラリティまだ来ない。美しくない。
掌編「人」(課題 歌)300/300文字
「お前鼻歌下手だな」
ゴミ箱の隅に不審物と通報。珍しく生身の子供を発見。追い回し、移民局に渡す。車に戻り助手席に座るとコンビの最新アンドロイド警官M7が、ハンドルを握り歌っていた
「下手」
「まあ俺は元、人間だから」
「はは、冗談は上手。その曲は?」
「ブルース」
「音痴で懐古か」
「はは、人間らしいだろ」
「最新型だから?」
「ああ音痴も再現できる」
「それは先週強盗に殴られてからだろ?修理は?」
「いい。あれで、俺は人間だって気付いたんだ」
「最新鋭になると人間と区別が付かないな」
M7は笑っている。あんなに走り回ったのに元気なことだ。
俺は疲れた。
「一度は機械の身体になりたいぜ」
「なるか?」
M7は笑って車を出した。
※お題に対して300文字以内の掌編です。
第二十八回文学フリマ東京に参加します
こんにちは。
連休最終日、5月6日に東京で行われるイベントに出店します。
本記事では、
- イベント詳細
- お品書きご紹介
- 書籍それぞれのご紹介
- ほか、余談
を、記します。書籍内容のご確認を急がれる方は、記事中段までお進みください。
1.イベント詳細
イベント名 文学フリマ東京
場所 東京流通センター
時間 11時~17時
ブース№ コ―9
webでカタログがチェックできます→https://c.bunfree.net/c/tokyo28/!/%E3%82%B3/9
小説を販売しています。
続きを読む掌編 ふたたび生命となるために (題テーマ 咲く より)
ふたたび生命となるために
お婆ちゃんは、井戸と東屋のある木造の平屋に住んでいる。一見雑草だらけの庭。毎日手入れに熱心だ。花の苗が植えられていて、季節ごと庭のあちこちで、色とりどりの蕾が膨らむ。生命に満ち、美しい。
この庭で、花が咲くことは決してない。
お婆ちゃんは蕾のうちに鋭利な鋏で茎を切る。郵便配達夫、蕾をもらいにくるパン屋の女将、街の人々に分け隔てなく配る。
やがてそれは、美しく花開き、街を彩る。
「なぜ庭で咲かせないのです?」取材の際にそう聞くと、お婆ちゃんは言った。
「咲かせれば、この狭い庭で必ず散る。その名残をね。あちこちに残してあげたいの」
今日も、この歴史ある街のどこかで咲く花のひとひらが、見知らぬ街角の土へと還る。
本文300文字