300字短編「隔世」(題材 渡す)
すずみさんへ
私が女学生の時分、お祭りへ行くときに、かあ様がこの浴衣をこしらへてくださいました。今のすずみさんの方が背高だとおもひますけれども、きつと似合ひます。
おばあちゃん
寮に送られてきた浴衣に手紙が添えてあった。祖母の手書きの文章を見るのは初めてだった。縦に延びた文字の繋ぎの上手さに、すごく昔の人なんだ、という現実感がある。心がざわついた。
それから数年を経て実家に戻り、母にその話をした。
「……へえ、意外。私手紙なんてもらったことないわ」
「見る?」
「いや、いいわ。そういうのって」
「そう?」
「私に孫ができたら手紙書くよ」
「……へえ、意外。そういうのって」
なんとなく笑いあって部屋に戻った。
母の書く文字にあまり覚えがない。自分と似た字を書くから記憶に残らないのだろうか。
私も、縦の線を長く延ばす癖がある。
352文字 時間切れ