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sanaritxt’s blog

思考をぽつぽつ置いておくところです。

お試し 3章 「重い水密扉を目指して」 2/5 小説『2oH-2o39』

こんにちは。第三章の試読をアップします。

これまでお読み頂いているだけでも、すごく嬉しいです。

どうか、文フリの会場で購入していただけますように。

本書が、本書を読む人にとってよい読書時間や体験の一つになってくれたら、と願っています。

 

小説『2oH-2o39』

 

 サンプル

 第三章

 

 重い水密扉を目指して  3/5  新秩序 2024~2033 

山の頂にある空港で、ぷわぷわと大きな船が空を泳いで降りて来るのを見た。そこが最初に見た、美ヶ原シェルター空港だった。これからこのシェルターに住むという時の思い出だから、たぶん6歳で合ってる。2024年だったと思う。父と母も、まだ若い。

そのときの空は広くて青くて白かった。船は膨らんだ細長い帆をいくつも張り合わせて、球体に近い形にしてあって、それがふたつ並んでつながっていた。真っ白な部分と影の部分と、その間のグラデーションに別れていて、まるで、肌が滑らかに張った、太った白イルカの2頭立てみたいだった。空港の周りを見渡すと光が湧き出るようにして緑色の草が生い茂っていて、それは時々風のかたちに揺れた。

少し強い風が吹いて、音と一緒に私の身体を押した。ずっと続く雲の向こうの遠くに、山の頭がすこし出ていて、小さくてはっきりとした赤い光が明滅していた。父はそちらに向けてタブレットをかざして、「ほら!すごいね」と言いながら私に見せた。タブレットの中に同じ景色があって、光る点のところに矢印と一緒に出た文字を、「よこおやま」と読んでくれた。あれは、よこおやまというのだ。そこにもシェルターがあるという。父はまた、「ほら!」と言いながら、タブレットを動かして、一面雲しかない場所で止めると、文字が出てきたのだけれど、黙っていた。私が、「なに?」って聞いたら、「昔とうきょうってまちがあったところで、今はもうないところの名前がね、」と言った。ずっと遠くの煙の出ている方にかざすと、にゅっと真ん中をつまんだように尖った山の形が出てきた。「ふじさんだよ」と言われた。私は楽しくて、父と一緒にいちいち声に出して読み上げていたら、ぶらぶらしていた母がいつもの、じわじわ楽しいときに笑う感じで近づいてきて、後ろ手に持っていた黄色い帽子を私に被せて、ゴム紐をさっとかけてくれた。強い風が吹いて、父は手に持っているタブレット端末を落としそうになった。私はよくわからないけど父の慌てたポーズが楽しくて、父と母も一緒に声をあげてはしゃいでいた。その風で、私の帽子が飛びそうになって、ゴム紐が伸びた。私は「わー」と言いながら両親に背を向けて屈んで、帽子を両手で抑えてしゃがんだ。

その時に、父の口から、これからこの下にある地下に住むと言われたんだ。安全で、安心な地下の都市。母は笑いながら、肩を左右に揺らしていた。

事実それから10年後の今まで、つい三日前までは、ずっと美ヶ原シェルターで暮らしていたのに、今はもう、戻ることができない。

 

 ○

シェルターの中のことを思い出していると、父と母と一緒にいるような気持ちになる。

シェルターは、資源採掘基地になっていて、他にもあるシェルター都市もここと同じ構造みたいだった。山をくり抜いていて、災害にも強い。

中は複雑に入り組んでいるけど、基本の構造は簡単で、一番上の空港から地下へ向かって、太い竪穴が掘られて、そこに大きなエレベーターが通っていて、下へ向かうにつれて、左右に伸びる横穴が増える。そこにアリの巣の図みたいに立体的に色んな空間が作られていた。エリアによって通路の色が違って、住居として決められた通路はクリーム色に塗られていて、学校になっているところへ向かう通路は水色に塗られていた。

父が働く資源採掘の場所は、掘り進むところが頻繁に変わっていて、そこを掘り終わった跡地は、新しい住居や施設として使われることもあれば、蒸気や水が出そうだったり出たところはすぐにコンクリートで固めたり、鉄のドアで塞いだりしていた。

地下はだいたい冷たい空気が流れてたんだけど、時々硫黄の匂いとか湿気を感じることがあって、そういうところには近づかないように習う。

そういう蒸気とかガスとか水とかが噴出したり、噴出した後に空いた空洞で陥没が起きたりして、落盤とか、事故もいっぱいあった。父も怪我をして帰って来ることが当たり前にあったし、骨折とかで仕事に行けないこともあった。その度に「なんとかなるよ」と言いながら、復帰するときに、腕の関節のところに補助用のモータの付いた機械を付けるようになったりとか、空気圧でチューブを膨らませて筋肉を補助する機械が付いたりとか、大変そうだった。シェルターは、事故で人が亡くなると、新しい人を補充するために、昔わたしたちが選ばれたように、外から選んでいるみたいで、働けるうちは怪我をしても、新しい機械がテストするために、父みたいな人がたくさんいた。

そんな感じ地下の通路はでずっと開発され続けるから変化が多くて、入れないところも行き止まりもたくさんあった。それは、図書館の映像資料でみたことがある、海外の石造りの古い迷宮のような街と似ていた。点在する照明の感じとか、暗いところのよくわからない奥行きがそっくりだった。

急に鉄の扉とかコンクリートで塗り固められた行き止まりがあったり、ただ黄色い看板が置いてあるだけの、先が暗くてわからない通路もあった。常にどこかしら掘ったり埋めたりしていたから迷いやすいのだけれど、私達はみんな、ナビを身に着けてるからなんとかなっていた。

 

地下都市に住む人はみんなこの、ナビにも情報端末にもなる小型のイヤリングみたいな端末を、必ず着用する義務があった。耳の上から裏側に引っ掛けて、耳たぶの裏へ出した下が本体の球体で、それを顎と首の境目にくっ付けるように下げて固定する。これは、耳元前方から背後まで丸々カバーするカメラの役割があった。アクセサリーで例えると、丁度ピアスより下の位置になって、イヤリングよりも首筋に密着するところに固定する。それをみんながかけている。通信とか検索とかもできる端末で、プライベートな場以外では外してはいけない決まりになっていた。でも普段これを着けていると便利で、軽いから着けているのを気にしなくなってしまうし、危ないところに近づくと迂回するように促す音声が、顎から耳の骨を振動させる方法で聞こえてくるようになっている。骨伝導という技術のようだった。振動で音が鳴っているように感じさせるから、他の人には聞こえなくて、人に迷惑をかけないので便利だった。そんな理由で、耳のこの位置に端末を着けることになっていた。そのお蔭で、複雑な地下で道に迷っても、新しい迂回経路を音声案内してくれるから、便利だしそれが当たり前になっていた。

10代になると、複雑なことを教わったりして、そのときに、その端末の仕組みで、シェルターの中にいる全員のデータが、シェルターのサーバーに集まっていることを知った。全体を管理しながらデータを解析したり蓄積したりして、それぞれに最適な指示を自動で出す仕組みになっているらしかった。友達の中には、親から聞いたけど、と言いながら、そういうのはちょっと怖いと小声で教えてくれる人もいたけれど、私にとっては便利だし不都合もないから、プライベートが気になるような年齢になっても、着けていることはそんなに気にならなかった。

毎日些細なことでも、両耳に着けた端末が私の見聞きして経験したことを記録しているらしい。記録したデータが見られるところは家や教室とか、決められたところだけだった。そこで一か月前までの時間や場所を指定すると、その時の画像を選んでプリントしたり、データとして手持ちのカードに入れることができた。他には、対話の機能もちゃんとしていて、何かあったときに質問をしたり問いかけたりすると、適切なアドバイスをくれる。何となく相談相手にもなってくれて、私が何か聞くと、私の経験と性格に合わせて学習しているデータの中から、私に最適な答えを返してくれていた。毎日私の暮らしを記録していくから、私の忘れていることも覚えていて教えてくれたりして、提案してくることも私に合ったことだから、私より私らしくなってるみたいな感じもあった。例えば、映画がみたくなって、データアーカイブの中から何か選びたいと思うと、私が興味を持ちそうなものの候補を、ある程度絞り込んで提示してくれた。

公の空間では、この機能は使えなくなっちゃうのだけれど、私的な時間には、何か聞くと、だいたい私のほしい答えがわかっているかのように返されることもあって、まるでもうひとりの私がいるみたいだった。

 

徐々に、確実に、身の周りに機械が増えていっていたと思う。

最初は、通路の整備や管理も全部人がやってたんだけど、数年前から、人手が足りないとか、急に直さなくちゃいけない危ないところには、道を警備したり整備したりする、サッカーボールぐらいの小型ロボットがわらわら集まっていて、中から出てくる機材で測定したり直したりしてるうちに、それで間に合わない感じだとローラーを付けた大型のロボットがどこからか来るような感じだった。

数年前、帰宅したばかりの父にその話をすると、「まったく、俺がすることなくなっちゃうけど、でもそれなら楽だよなー」と笑いながら頭を掻いていた。その父の腕から背中、そして腰から両足の脇に金属の棒が添えられていて、それぞれの関節をモーターと細いゴムチューブが繋いでいた。重い物も楽に動かせるようにサポートする機械は大掛かりになっていて、時間をかけた充電が必要だった。父は後ろ向きに壁に立つと、壁に据え付けてあった充電器にそれをくっ付けた。すると、その機械の肩と手足、腰にある留め具は父の身体から外れていき、父はゆっくりと生身になっていった。モーターのLEDの色が赤く変わった。

父が身体を伸ばしながら唸っていると、母が帰って来た。母は、シェルターの上層階にある臓器製造工場で働いている。のんびりした声で、「おなかすいたー」と言いながら、配給の基本食以外に何かを付け合わせにして夕食にしようかという話になった。父母はシフトで一緒にいる時間が変わるから、家族そろって夕食の時間は稀で、だから私は、みんなが揃ってることが嬉しかった。母は時々変なことを言い出すのだけど、このときも、「私、仕事で臓器作ってるからさ、その仕組みを見てると、そこで生肉も作れちゃうはずなんだ。それをさ、食料にして配ったらいいと思うんだけど。たまには肉食べたいし。でも、私毎日臓器見てるから、よく考えたらやっぱり食べたくないんだよなあ。」と言って笑っていた。父は、「焼いたり蒸したりするのは、俺やだなあ。穴掘ってて蒸気とか出てくると、な。」と言った。私は魚が食べたかった。

父しかいないときには、父はポーカーが好きなので、ごくたまに相手をしてあげた。ポーカーが好きなことは、母には秘密にしているらしかった。

私と母と二人で過ごすときはお互いの携帯端末や着用端末をリンクさせて、世界情勢とか動物の動画とかを寝ながら見ていた。母は落ち着いた感じで流れるニュースとか、ナレーションを見たり聞いたりしながら寝るのが好きだった。

時々、周囲でたくさん起きる自然災害のニュースや紛争のニュースをやると毎回、母は私に聞こえるか聞こえないかぐらいの甘い声で、「ね、揺れないし頑丈だし、ここに入れてよかったよね」と言った。そうして、私を見て、じっと見つめながらじわじわとにこにこと笑いながらうつ伏せになって、クッションに顔を埋めて、足をぱたぱたと動かした。

 

つづく!

 

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