sanaritxt’s blog

思考をぽつぽつ置いておくところです。

お試し 2章 迷いと祈りの間 3/5 サンプル タイトル『2oH-2o39』

 みなさんこんにちは。文フリ東京まであと少し、ですね。

今までここに、試し読みを三章まで公開していたのですが、原稿を書き直しましたので、再度掲載します。

SFって、人の生き方と日常をちゃんと書くことが大事だと思っています。

日常の描写と心の動きをしっかりと書くことで、突拍子もない技術や社会の変化でも違和感なく読んでもらえるのではないか、と思っています。

 

 

小説タイトル『2oH-2o39』(つーおーえいち‐つーおーみっく)

 

  第二章

 

   迷いと祈りの間  3/5 サンプル 2017~ある二人暮らし

 彼と二人で、ワンルームのアパートで暮らしている。

ちょっとお酒を飲んだ。半分ぐらいだ。夜、日付が変わるまでにはまだ時間がある。部屋の電気は消してある。半分なのにだいぶ酔った。彼は起きていて、テレビを点けたままPCモニターを見ている。モニターの中ではぐるぐるとスロットが回って、ちかちかと光っては廻って止まって回っている。時々金髪でサングラスをかけた男が変なポーズで出てくる。またスロットが回る。ちかちかと光る。この男は、室内にいるけど光るから眩しくて、だからサングラスしてるんだろうか。アクセサリーも光るものを身に着けている。髪色も明るくて、顔もてかてかとしていて、アクセサリーも光っていて、スロットも光っていて、ここまで光属性なのに、サングラスをしてしまう。ふむ。闇属性。スロットは揃えたい。光属性。サングラスだけ闇属性。彼は起きている。私は眠い。ふむ。

部屋にベットは一つしかない。部屋の中にある私以外の眠くない全部からすっと背を向けて、彼が入ってくるスペースだけ作っておく。毛布を引っ張って壁際に寄る。目の前に壁があると安心するけど、このごろちょっとそうでもない。壁の向こうの住人が、先月ぐらいから急に、声の大きい外国の人に変わった。壁のすぐ向こうにベットが置いてあるみたいで、誰かと知らない言葉で、大声で話しているのが聞こえる。毎日、というかほとんどずっと、誰かと通話とか会話してるみたいだった。だから最近私は、彼よりも知らない人の近くで寝ている。背後の、音量を絞ってあるテレビから、アナウンサーの低い声が聞こえる。平日は毎晩、この声を聴いている。この声を聴いているとなんだか、安心して眠くなってくる。内容も毎回、だいたい同じようなことを言っている。災害対策とか、山へ移住とか。でも実は地下が安全とか。『ちょうい』が上がったとか。潮位。かいめんじょうしょう。続いては、オリンピック問題。強く『いかんのい』とか。遺憾の意。意味が深刻なのに、響きが面白いから口に出してみたくなる。

こうして毎晩、彼の声ではなくて、いい声のアナウンサーの、低い響きを聴きながら、うとうととするこの時間が大事なのかも知れない。彼と一緒に暮らすことじゃなくて、誰か部屋にいて、身体は疲れているけど、私は安心して無防備に寝てられて、心地のいい声がして、それでもっと安心したりリラックスして、このまま眠れる。眠りたい。明日も、明後日も。

だけど、いつもこの後彼がベットに入ってくると寝られなくなってしまう。シングルだからすごく狭くて、押されたり、いびきがうるさかったり、私が先に寝てないと大変だ。それと、彼はいつもモニターの電源を点けっぱなしで寝るから、私は目を閉じててもちかちかしてきて、益々寝られなくなってしまう。以前、まぶしすぎて消そうとしたら、机の上とかの色んなものを倒したりこぼしたりしてしまって、酔っているしわたしもめんどくさいし、触らない方が楽だからそのままにしておいたんだけど、翌朝もう、部屋酷くて大変だった。

今日はなんだか特に何か光っていて寝られなくて、うとうととはしてたと思うんだけど、多分明け方だと思う。ふっと目が覚めてモニターが点いてたから、もうまぶしくてつらくてむっとして消そうとして、ちょっと夢の中みたいな感じで、手を伸ばしたらモニターの角を触り損ねて指を引っ掛けちゃって、そのままモニターのケーブルを引っ張っちゃってものすごい音を立てながらデスクの上の色んなものを引き倒しながら、飲み物とかハサミとかと一緒にモニターも机から落ちてきて、寝てる彼のお腹にぐさぐさ刺さる感じになってしまって、彼は痛いよりびっくりしたのか、彼が起き上がったときに身体を捻りながらお腹を押さえてそのときに、咄嗟に彼の曲げた肘が私の左の頬に当たって、くらくらしながら二人で結構大声で呻いたりしたらしくって、隣の部屋の外国人が怒って何か叫びながら壁を叩き始めて、彼もお腹を押さえながら怒って壁を蹴ったりして、滅茶苦茶な状態になってしまった。

彼は部屋を飛び出して行って、私はめんどくさくなって寝たのか、ふと朝になっててちゃんと部屋の中を見たら、今日は一日もう無かったことにしたいぐらいひどい状態だし彼はいないし、うんざりしたんだけど、仕事に行かなきゃならなくて洗面所に行って、口の中が変な感じがしたので口をゆすいだら洗面台が真っ赤になる。元からすこし黄色い洗面台なのに、一面が赤く染まってそれは私の口から出ていて、これはと思って顔を上げて鏡を見たら、私の顔色や身体だけが青白く、彼の肘がぶつかったところは赤と青と黒の痣になっていてホラー映画の予告編のようだった。口の中を切っているようだったけど、舌を動かしてみて確認したらもっと痛くなりそうで、お湯の蛇口を捻ってしばらくして、水と混ぜてちょうどいい感じにしてゆるゆると口をゆすいだ。出勤しなきゃいけないけれど、職場は暗いから痣はファンデでなんとかなる。電車とか移動が困ったなあと思ったけれど、マスクがあればいいかなと思った。段々、一つ一つどうしたらいいか考えているうちに落ち着いてきて、準備をして、部屋から出て、つま先でとととととととたん、と小さく刻みながら階段を降りながらマフラーを巻いていたら自分の匂いがしてすっかりいつもの調子になった。これなら頬が隠れてるから大丈夫かも。アパートから出ると埃で鼻がむずむずとして、手袋を着けていたらつむじ風が吹いてマフラーがずれた。駅までささと早足で行くと周りに着々と人が増えていて、駅前の紅白の看板のコクミンに入ったら、インフル対策で結構たくさん選べるぐらいの種類のマスクがあって、今まで気に入ってたマスクの改良したやつが安く買えたので店の外で袋を開けたら、入ってる枚数が減っていて、んーと思いながらマスクをそっと着けて、そこにふわっとマフラーを添えた。

駅前スマホショップの中のロボットが、へんなポーズのまま動かなくなっている横を歩いて、駅に入るたくさんの人の一部になって、何故かその時だけ背筋を伸ばしてsuicaを改札に翳す人になって集団で階段を降りたら丁度電車が来ていたので手近なドアに入って、ちょうどで決められていたかのように一つ、ちょうどいい幅で空いていた座席に座った。そこそこ混んでいて、電車が動き出すと、あまり寝ていないせいなのか、ちょっと酔ったみたいで吐き気がしたけど、胃に何も入っていないので涙目になるぐらいで我慢できた。でも、強く唾を飲み込むごとに口の中の傷が余計痛くなりそうで、じっと目を閉じていた。

通勤する今の境遇は、サービス業の通勤ラッシュより少し遅い時間になっていた。どうせ電車使わなきゃいけない生活するなら結構いいよねって思いながら、乗り物酔いを頭から消そうとしていた。あんまりしっかりとは考えないように、ゆるく眠りかけみたいにしてたら酔わないような気がして、ぼやっとしていた。夜から今のことと暮らしの全般を合わせてなんだか大きく思っていたときに、ああ、そうだ、電車も部屋もアパートも、狭いから余裕もないし押されたとか揺れたとか隣がどうとか、疲れたり気持ち悪くなったりぎすぎすしたりするんだな、と思いついて、はっとして目を開けて、目線を落として、知らない人の白い合皮のバッグの、ピンクゴールドの四角いボタンの角のメッキが剥げて、中の濃い鉛のような金属のような色を見つめていた。

 

つづく!

 

 

 

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