sanaritxt’s blog

思考をぽつぽつ置いておくところです。

300字短編「隔世」(題材 渡す)

すずみさんへ
私が女学生の時分、お祭りへ行くときに、かあ様がこの浴衣をこしらへてくださいました。今のすずみさんの方が背高だとおもひますけれども、きつと似合ひます。
おばあちゃん

寮に送られてきた浴衣に手紙が添えてあった。祖母の手書きの文章を見るのは初めてだった。縦に延びた文字の繋ぎの上手さに、すごく昔の人なんだ、という現実感がある。心がざわついた。

それから数年を経て実家に戻り、母にその話をした。
「……へえ、意外。私手紙なんてもらったことないわ」
「見る?」
「いや、いいわ。そういうのって」
「そう?」
「私に孫ができたら手紙書くよ」
「……へえ、意外。そういうのって」
なんとなく笑いあって部屋に戻った。

母の書く文字にあまり覚えがない。自分と似た字を書くから記憶に残らないのだろうか。
私も、縦の線を長く延ばす癖がある。

 

352文字 時間切れ

300字短編「抱擁」題 かさ

「かさ」を題材に300字以内

 

抱擁

 

まだ雨は降らないらしい。
面会時間内にお見舞いに行った。病室を囲うビニールから顔を出すと跳ねるように喜んでくれた。ずいぶん小さくなった、と思ったけれど、言わなかった。去年の春に、二人でオルガン通りに行ったことを話した。そのときに初めて指を絡めて手を繋いだ。
「楽しかったね。」
手を取って、指を絡めた。皮膚が薄く、細い骨の感触が目立つ。なのに、握り返してくる力はすごく強い。
玄関から出ると、静かに雨が降っていた。バックに手を入れて、去年の誕生日プレゼントでもらった青い折りたたみ傘を取り出した。しっかりとした骨組みが大きく開いて、私を抱擁しながら雨を受け止める。濡れることのない頬を伝う水滴。すこし細い傘の柄を強く握った。強く。

文フリ東京ありがとうございました!

遅くなりました。イベントに参加して来たのでご報告いたします。

今回私のブースにお越しいただきありがとうございました!

気にかけて下さった方や、ブース運営にご協力下さった方にも御礼申し上げます。

委託本もあって、ブースはとても賑やかでした。

開始直後に買いに来て下さる方がいたりと、今までにない体験ができました。

委託として置いた本は、私も全て読んでいます。とても好きな本です。買いに来て下さる方も同じ傾向の本が好き、ということで、楽しく交流することができました。

東京では初お披露目となる本もありますし、今回イベントに申し込みをしたのに、様々な事情により参加できなかった方の本もあります。それぞれに違うジャンル、作風の本が並び、とても充実したブースになりました。機会があればまたご覧いただきたいぐらい、楽しくて充実したブースだったと今でも思います。

春先のイベントは、連休と絡まって参加予定を立てるのは難しいですよね。(実は私も平日とか、土日ではない方が動きやすいです)

私自身、昨年の同イベントに申し込みをしていながら参加できなかったので、出展者が来られなくても、本だけでも人目に触れるようにしたいと思っていて、こうして委託を受けさせていただいたのですが、やってよかったです。

展示方法はちょっと困ってました。私の本が彩の足を引っ張ってしまった印象です。

普段の出展は私の本一冊、単色のものだったので、設営は毎回その場の気分でやっていました。事前に送った荷物の中から使えそうなものを取り出して、周囲のブースから見ても埋もれないような配置です。周りが賑やかならシンプルにしたり。テーブルクロスの上にモザイクタイル状に本を置いていくつかランダムで剥がして置いたり、スケッチブックを広げてその上に本を一冊だけ置くとか。ブース番号だけはしっかり見えるようにするということだけは決めています。自分が本を探すときに、ブースの位置がわからないと探せないので。

今回は、藍色のクロスとキャンバス地のクロスを用意していて、藍色のクロスを置いてから委託本を飾っていたら楽しくなってしまい、委託本の位置と角度完璧だなあと思い嬉しくなってから、印刷所から来た自分の本が入ったダンボール箱を開封したら藍色の本が入っていてびっくりしました。暗すぎないか。テーブルクロスと同じ色だと、だめなんじゃないのか。単品だとすごく綺麗なんだけど、このブースに置くと、目の前の通路を通りかかるぐらいでは絶対に目につかないやつです。迷彩。
その後現地で本の仕上げにジェルシールを貼って、光らせて完成させようと思っていたのですが、今回は作業もできなかったので本当に目立たなかった……なんか本らしき塊があるような感じで手に取りづらかったと思います。

ただ、今まで私の本を買いに来て下さった方は通りがかりではなくて一直線に来て下さるので、今回もきっとどなたかが来て下さると思いながら過ごしました。(通りがかりっぽくしていて実際に寄る予定でいて下さる方もいます。嬉しいです。)

宣伝もほとんどできなかったので、事前告知を拡散して下さった方にはとても感謝しています。あと、その告知をしていたツイッターですが、イベントの時期に告知しても剥がさないでいて下さって嬉しく思いました。

今回ちょっと周りの状況の事情もあって、人が寄り付きづらいかなあと思っていたところ、私の本目指して来て下さった方がおられました。ありがとうございます。年に一度か二度、ほんの僅かな時間ですが、とても楽しくお話しできて、すごく嬉しかったです。お元気でいてください。またいつか。

同人イベントは部数が見えない、とよく聞くので、適切な冊数はわかりません。早々に本がなくなった委託本もあり、その後来て頂いた方には既刊一覧小冊子(貴重です)をお渡ししたり、できる限りのことをしました。

それから百合本のお問い合わせもありました。人によって認識が異なるので、どういった表現があるとそのジャンルに該当するのか定まっていなくて興味深かったです。色々と教えて頂いたりもしました。このジャンルは単独出展されている方が多くて、頒布や会場で過ごすこと自体に苦戦されることもあるようですので、同性で同じジャンルを書かれている方は連携されたらよいのに、と思っています。今後どんどん盛り上がって欲しいです。

私の本を含めて、委託本さまざま、実は通りがかりに気にかけて下さる方もいたのですが、留まっていただくことが難しかったので、対応が上手くできずすみませんでした。

ただじっくり本を探したい方に快適に過ごしていただくために、どうしたらいいのかなあ。

私は普段社交的ではないんです。ただ、本好きの方や私に好意的な方には笑顔になる、というか、笑顔にして頂いています。それほど、普段は沈んでいるので……。

話しかけるバランスが難しいなあと思っているのですが、今回はあえて声をかけることが多くありすみませんでした。事情があって。これをどう書くか迷ったのも、記事をあげるのが遅くなった理由の一つです。

私のブースに接近する方は、私から声をかけることが守ることにも繋がっていて、留まろうとして下さる方にはきちんと対話して、私のブースに来ていただいている方だと示さなければならなくて。

あまり話したくない方もおられるし、本だけをちゃんと吟味したい方もおられることもわかっていました。すみません。

事情は書きません。

そんな中で、通路を行き来しながら何度も私のブースに留まろうとして下さった方や、言葉少なく、ただ私の本が欲しいと頷いて下さった方もいました。

ツイートを見て来て下さった方も、緊張しながらお話しして下った方もいました。

私が不在の間、本を見て下さった方。

私の代わりに本を買って来て下さると、ご提案して下さった方。

差し入れして下さった方。

委託本を吟味して下さった方。

私が戻るより先に、私のブースで待っていて下さった方。

ありがとうございました。

今回、できるだけ存在感を消そうとして服装作っていたのですが、上手くいっていたでしょうか。

あと、今回宿ですがマンションタイプでした。住めそうです。

前日チェックイン前に、あまりに暑くてコンビニでアイスコーヒーとiceboxを買いました。手に持ったままフロントで、朝食の説明を受けていました。

「朝はコーヒー自由にお飲みいただけます。あ、でもアイスコーヒーはありません。買ってよかったね!」

と言われて、急に同級生の姉?みたいになりました。面白かったです。

ではまた。

300字短編 「虹」 (テーマ:色)

ツイッター300ショートショート企画に参加します。

https://mobile.twitter.com/Tw300ss/status/860826497883308033

 

 

 

 

ぱらぱらとした音が止み、少しだけ窓を開けると強く雨の匂いがした。
「虹、」
すぐ近く、背後で眠っているはずなのに声がしたので見ると、目が覚めたらしい。じっと窓の外の、塀の上にある小さな空の方を見ている。私も目を向けると、そこにうっすらと、言われなければわからないぐらいにうっすらと虹が出ている。
「昔から思ってるんだけどさ、七色じゃないよねえ」
「言われてみると確かに」
「だんだん変わってく間があるじゃん」
「うん、間あるのはわかる」
「あの間の色って、なんて言うんだろうね」
なんて言うんだろう。
それから、そのことを二時間ぐらい話して私たちは別れて、それからずっと会うことはなかった。
今日も虹を見た。

いつかきっと、また話そう。

無料配布ペーパーのお知らせと、お試し 短編「給水塔の空」文フリ東京C-63 「平行線別離」収録

もうすぐ文フリです。

無料配布冊子できました!お気軽にお越しくださいね!

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無配はショートショート2本収録

葉桜の公園で

「呼び名」

給水塔の上で

「給水塔の空」

給水塔の空は、本編収録短編の元バージョン。

「氷」というお題に沿って300字のショートショートを作る企画に参加したときに書いたものです。

内容がかなり異なるので、読み比べてみてくださいね。

 

「平行線別離」収録短編「給水塔の空」書き出しです。

 

 

 

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 給水塔の空(ショートショート増補 題「氷」初出一七年二月、四月)

 

 給水塔の空

 

 

 

 「じゃあ、またね」

 朽ちた給水タンクの中の、丸く切り抜かれた水面に、肩を寄せるわたしとノノの姿が映る。表情ははっきりと見えないが、二人のシルエットはすごく自然だ。

 

背景の空が霞んで、ぼんやりと春が来ている。花と土の匂いがかすかに漂って、蜂が音を立てて通り過ぎた。私たちは今まで、街の外れにある廃棄された給水タンクの上で、放課後を一緒に過ごしていた。

最初から示し合わせてここにいるのではなかった。家に帰りたくなくてここへ来ると既にどちらかがいて、それをお互いに繰り返すうちに一緒に過ごすことになった。最初はどちらがこの場所を先に取るかでけん制し合っていたのだけれど、どうしても帰りたくない日に来てみたら、先に来ていたノノが上で寝ていたので私は仕方なく周りをうろうろしているしかなくて、

「いいよ、おいでよ」

と言われて、梯子を昇り、手を貸してもらって、私たちは急速に仲良くなった。

 

田舎住まいで学校の周りは山か森しかなかったから、家だけではなく学校にもあまり馴染めない私たちが居られる場所はここしかなかった。家と学校以外のどこにいても、必ず服が汚れてしまう。侵入するときに周りを囲んでいる錆びてあちこち鋭い柵にさえ気を付ければ、綺麗なままばれないで過ごすことができる。私たちは繰り返すたびに身のこなしが器用になっていった。

 

つづく

お試し 短編集「平行線別離」より短編「木陰の告白」1/4 文フリ東京C-63 #平行線別離

本記事最後に、「平行線別離」の概要をご説明した前回の記事へのリンクがあります。

 「平行線別離」#平行線別離

より、

試し読み短編

 

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木陰の告白(短編 未発表「花」二〇一七年四月二十七日)

 

 

 木陰の告白

 

 

 

 「お久しぶりです。何年振りでしょうか。

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文フリ東京に参加します1階C−63 「別れ」と越境がテーマの短編集「平行線別離」#平行線別離

はじめまして。あるいはお久しぶりです。お元気ですか。

 

無事に新刊ができあがり、ようやく文フリ東京に参加できそうです。

「別れ」をテーマにした新作短編集『平行線別離』(文庫版56ページ)500円です。ワンコイン。

印刷が上手くいっていたらいいな。

こんな感じです。ハッシュタグは、#平行線別離

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ぜひお越しくださいね!

 

今日から試読に少し解説を添えて記事にしていきます。

目次も記しますので、なにか気にして頂けたら嬉しいです。

会場での試読も、そしてブースC-63をよろしくお願いいたします!

 

そして、川柳と俳句と短歌の冊子『柳句歌談』現在制作中です。

無料配布もなにか考えたいところ、なんとかしたい……。 

 

また巡り合うために同じ世界を生きて行く「平行線別離」

 今までに、何かとお別れしてきましたか。

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